第145話 次期生徒会長ですが何か?
テスト期間が終了した事で、教室に緊張感は無く、とても緩く和んだ雰囲気に包まれている。
リュー達もあとは数日後の結果発表だけなので、いつものみんなとグループになり話し込んでいた。
そこへ教室の扉が勢いよく開けられ、数人の見た事がない生徒達がどかどかと入ってきた。
「我々は王立学園次期生徒会の者だ。エリザベス王女殿下に挨拶に来た。殿下はどちらに?」
眼鏡をかけたすらっとした長身に、青い髪と切れ長の鋭い目をした男性がそう告げた。
「あれが次期生徒会長予定のアタマン侯爵の次男、三年のギレールだぜ」
ランスが、すぐに気づいてリューに耳打ちした。
「……私ですが」
王女は席から立ちあがると答えたが、この急な訪問者にあまり良い印象を持たなかったのかその面に歓迎する様子はなかった。
「これは王女殿下、初めてお目にかかります。と言っても殿下が小さい頃にパーティーでお会いした事がありますが、流石に覚えていらっしゃらないでしょう。なので初めてとさせて頂きます。今日は不躾ながらお願いに上がりました」
ギレールは、そう言うと王女と距離を詰める。
「……何でしょうか?」
王女はいよいよ警戒感を露わに聞き返した。
「王女殿下もこの学園ではまだ入学したてのー生徒、とは言え、将来この学園の生徒会長になられるお方です。そこで、殿下には次期生徒会長になる自分の元で私を参考にして頂き、将来の生徒会長としての心構えを学んで頂くのが一番だと思うのです。そこで私の選考する時期生徒会の役員の一人として入って貰いたいのです!」
ギレールは、慇懃無礼な態度でそう言い放った。
「……生徒会長は選挙で決まるものと聞いています。その選挙はまだ行われていないと記憶していますが、私の記憶違いでしょうか?」
王女は冷静に、且つ皮肉を言葉に乗せてまた聞き返した。
「ははは!歴代の生徒会長は、特別クラスの優秀者がなってきています。今年もそうなるでしょう。つまり、今の三年生で一年時からずっとテストで一位を獲得し続けている自分が生徒会長になるのは必然です。それに殿下が役員入りすれば、反対する者は誰もいないでしょう!」
まるで自分の下に王女も入るのがさも当然の様に、ギレールは言うのだった。
「……申し訳ありませんが、私は王家の娘。あなたの個人的利益の為に選挙前からあなたの下に名を連ねるつもりはありません。それに平等を期するなら役員の選考は選挙後正式に生徒会長になってから行うべきではないですか?」
最早、気を遣う気も失せたのか自分を客寄せにする気でいる目の前の男の卑しい考えを指摘した。
「──な!ふー……。これはこれは手厳しい。殿下はこの学園の慣習をまだよくお分かりでない。先程も言いました通り、自分が次期生徒会長になるのは必然です。なので役員をこの時から選考して前もって公表しておく事も生徒達にはわかり易くて良いのです。殿下も再来年、生徒会長になる時に私が言った事がわかりますよ」
激情しかけたギレールであったが、深呼吸をして踏み止まると先輩としての余裕を見せて答えた。
「お言葉ですが、今年からこの学園の関係者が一新された事をご存知ですか?これまでの方針や慣習も一新されると思った方が良いと思いますが?もちろん、ギレール殿が次期生徒会長に一番近いのでしょうが、慣習に拘っていると足元をすくわれますわよ?」
王女は丁寧にだが、完全にギレールを軽蔑する様に答えた。
「くっ!……それはそれはご心配頂き光栄です。残念ながらその心配には及びませんが、次期生徒会長として心に留めておきましょう。それでは生徒会長になった折にまた、殿下を役員として指名させて貰います」
そう言うと、ギレールは仲間を引き連れて教室を出ていく。
3年生が出ていく時、その中の一人の男がこちらを見てギレールに耳打ちし、ギレールが自分を鋭い視線で一瞥した気がしたが、リューは気のせいだと思う事にした。
リューとしては絶対に関わりたくない相手だ。
王女殿下とのやり取りからも自尊心が強く、相手にすると厄介そうだというのはわかったからだ。
「今の人、リューを見て出て行かなかった?」
リューの気のせいだと思いたかった気持ちを打ち砕く一言をリーンが発した。
「……止めてよリーン。僕も何となく気づいたけど、気のせいで処理するつもりだったのに……」
苦笑いするリュー。
「あ、そうだったの?でも、気を付けるに越した事はないわよ」
「そうだぜ、リュー。俺でも気づいたくらいだから、お前、ギレールに目を付けられてると思った方がいい」
ランスが、冗談交じりに言ってきた。
「そうだな。リューはうちの学年で優秀な生徒の一人には違いないから、意識はされてると思った方がいいかもしれない」
ナジンもランスに頷いて言った。
シズもナジンの言葉に賛同して頷く。
「ははは……。僕は平穏な学園生活を送りたいよ」
リューはみんなにそう言うと、ため息を吐くのであった。
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