第99話 御用達ですが何か?
合格の翌日。
リュー達は入学手続きを早々に済ませ、ランドマーク組事務所、もとい、ランドマークビルの直営店化の為に、許可を申請したり、働く人をどうするかなど、やらなければいけない事を父ファーザ、執事のセバスチャンをランドマーク領から連日『次元回廊』で運んでは作業、検討していた。
その話し合いには、新たにランドマーク家に仲間入りした、父ファーザの知人であり、祖父カミーザに恩がある茶髪の茶色い目に高身長の商人レンドも混じっている。
レンドがビルの管理人で実質、王都におけるランドマーク家の執事みたいなものだった。
本人は、自分を過小評価してるが、冒険者時代はBランク帯冒険者だったらしいので、一流だったのは確かだ。
商人としては未知数だが、信用が出来る者として、レンドという人材は貴重だ。
「働き手は、職人も含めてランドマーク領から希望者を連れて来る方が早いと思うのですが。それと、現在、三階、四階は空き部屋状態ですから、細かく仕切って従業員家族の住まいにしてはどうでしょう?五階はランドマーク家で使うにしても十分広いと思います」
と、レンドが提案した。
なるほど、従業員価格で家賃を安くしても収入として回収できるし、空き部屋の活用になる。
正直三階以上を店舗にするにはお客が登ってくるのに大変だから自ずと客足が遠のきそうなのでこれはとてもいい案だった。
そういう事も考えて、レンドの提案が全面的に採用される事になった。
一階に出される予定の『乗用馬車一号』を含めたリアカー、手押し車などの販売店の従業員や職人はすぐにランドマーク領で募集した。
給与面の条件は良かったし、リューが『次元回廊』で、あっという間に王都まで連れて行ってくれるので、問題は王都に馴染めるかどうかだけだった。
職人は場所が変わってもやる事は同じというスタンスで、その家族も、夫が、父が行くならと前向きだった。
従業員も、都会に憧れる若者はいたのでこの機会は逃したくないと、すぐに定員に達したのだった。
それに、ランドマーク領の領民は学校で読み書きと計算を学んでいるので、正直優秀だった。
王都で従業員を募集したら、こうはいかないだろう。
二階に入る予定の飲食店「ランドマーク」に、『コーヒー』販売店、『チョコ』販売店、ランドマーク領の特産品を扱うお店のオープン準備を始めた。
手続き申請は商業ギルドで行われるので、情報収集に余念がない商人の中には、王都で最近『乗用馬車一号』に王家の方々が乗り始め、『コーヒー』がこちらの上級貴族のマニアの間でも有名になりつつあったランドマークの名前が耳に入ったので、極一部の目ざとい商人はすぐにあのランドマークが王都に進出してきたと気づき、商業ギルドで出来うる限りの情報を買おうと静かに動き始めていた。
高値で情報を買った王家御用達商人などは、わずか一週間で、オープン前のランドマークビルに直接交渉にやって来て、王家に納入する為の『コーヒー』と、『チョコ』の定期的な購入契約を求めてきた。
「うちの見立てでは、すぐに『コーヒー』と、『チョコ』はこの王都で人気になると思っています。そうなると品不足も考えられるので、王家には、毎月納められる数を確保して、うちも信用を失わない様にしないといけないんですよ。おたくの『乗用馬車1号』も王家の為に仕入れたのはうちです。実際あれは、王家に納めた事でランドマーク家の良い宣伝になったと思うのですよ。今回も持ちつ持たれつでお願いできませんか?」
王家御用達商人というから態度が大きいかと思っていたが、下手に出てこられた。
こちらは貴族とはいえ、地方のぽっと出の男爵風情だ。
なのでこれにはファーザもリューも意外だったので目を見合わせた。
「わかりました。そちらの顔を立てて、定期的に一定量卸しましょう」
この腰の低さと誠実な態度にファーザは頷くと、契約を交わす事にした。
リューはこの商人の腰の低さや誠実さが、成功の基なのかもしれないと感心した。
驕ったところが無く、王家との信用を大事にしているからだ。
それに買い叩くわけでもなく、この取引に関して利益より、王家への定期的な量を納める事を優先している。
こちらとしても、王家御用達商人と繋がりが持てて、利益も約束され、王家御用達の商品になれば万々歳であった。
こうしてランドマーク家の王都での門出は、早速良いものになるのだった。
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