第60話 今年も完売ですが何か?

 新たなカカオン畑計画は難航していた。


 何しろ魔境の森のど真ん中での作業である。

 壁に囲まれてるとはいえ、恐れない人はいなかった。

 なので、カカオン畑で働く人の為の集落作りも頓挫していた。


 予定では、魔境の森の境の砦の側に集落を作り、専用道路を使ってカカオン畑まで通い作業をする、という構想だった。


 集落作りはリューとリーンが土魔法で住居を建て後はドアや窓などを職人が作って完成なのだが、移住者の予定が無いので無人の廃墟状態であった。


 今、ランドマーク領の産業はコヒン豆とそれを加工した『コーヒー』で成功している。

 製造業もここのところずっと堅調な伸びを見せている。

 カカオン豆畑もその柱の一つに必ずなれるはずなのだが、働き手がいないとどうしようもなかった。


「うーん……。今年いっぱいの内にめどをつけておきたいのだけど、無理なのかな」


 リューが珍しくため息をついた。


「大丈夫よ。カカオン豆の素晴らしさを広めればいいのよ。簡単な事じゃない。今年の豊穣祭の屋台はあの『チョコバナーナ』を出すんでしょ?楽勝よ!」


 確かに、リーンの言う通りだ。

 バナーナが珍しい果物というだけでも評判になりそうなところを『チョコ』を付けて売るのだ、話題性はバッチリだ。


 領民には、カカオン豆から作ったものである事を大いにアピールしよう。


 リーンに励まされたリューは、豊穣祭を控え、気合いを入れ直すのだった。




 豊穣祭当日。


 領民達は最大の楽しみの一つである、領主様のところの坊ちゃんが出す屋台に今年も期待していた。


 今回は、これまで以上に凄い物を出すとその坊ちゃんと周囲が喧伝していたからだ。


 スゴエラの街から移住したての者達は何事かと騒ぎになったが、地元住民から、毎年豊穣祭では、安い値段で砂糖菓子が食べられると聞いて大いに驚かせた。

 砂糖は贅沢品だ。

 このランドマーク領では水飴というものが作られているが、まだ知名度は低く高級品だった。

 それだけにその砂糖菓子が食べれるとあっては移住してきたばかりの者達も期待に胸を膨らませていたのであった。


 朝から屋台を設置していると、すぐに行列ができ始めた。

 販売は昼過ぎからなのだが、それを並んでいる人に説明すると、


「前回、俺、食べられなかったんだ。だから、今回は並ぶ事にした!」


「私は、前回食べられたけど今回も食べたいもの。」


「ワシは移住組で今回初めてだが、砂糖菓子は食べた事がないから、どうしても食べてみたい!昼まで待つよ!」


 など、一人一人それなりに想いがあって期待してくれてるようだ。


 リューとリーンが大いに宣伝して回った効果が出ていた。



 いざ販売の時間が訪れた。

 並ぶ習慣が無い領民達がこの時ばかりは、みな綺麗に並んでいた。

 リューの子分の子供達が並ぶように言って回ってた事も功を奏した様だ。


「それではランドマーク家の今回の出し物、カカオン豆から作った『チョコバナーナ』の販売を始めます!」


「買い占めしようとせず、1人1本のつもりでお願いしまーす!」


 売り子であるリューとリーンが声を上げる。

 お手伝いのリューの子分である子供達も声を張り上げてお願いする。


 ざわざわ


 領民達は思い思いに話しながら自分の番を待って次々に串に刺された『チョコバナーナ』を買っていった。


「何これ!?今までの砂糖菓子と全然違う!」


「このバナーナだけでも美味しいけど、この『チョコ』がほろ苦さと甘さが相まって最高だ!」


「初めて砂糖菓子を食べたが、こんなに美味しい物なのか!え?普通の砂糖菓子とも味が違う?ワシはいきなり凄いものを食べたという事なのか!?」


 これまでの砂糖菓子とは全く違う味に、領民達は嬉しい戸惑いをみせて喜んでくれたのだった。



 リューは今回、移住者で領都の人口が増えた事もあり、例年より遥かに多い600を用意していたが、瞬く間に売れ、夕方には完売した。


 リューはリーンと大いに喜ぶと、それを手伝ってくれた子供達に取って置いた『チョコバナーナ』とお小遣いを上げるとお家に帰した。


 子供達はリューにお礼を言うと『チョコバナーナ』を手に急いで帰宅していく。


 それを見送ると、二人は満足して屋台を片付けるのだった。

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