第20話 貸してもいいですが何か?

 ファーザ達一行は、数日後にはスゴエラ辺境伯の元から帰ってきた。

 予想外だったのはファーザがエランザ準男爵を伴っていた事だ。

 リューもジーロもこの光景にお互い目を見合わせた。


 つい先日ここで恥をかいて帰ったばかりなのに、さすがにこのエランザ準男爵の厚かましさには驚くしかない。


 満面の笑みでファーザと話しながらリューとジーロに気づくと、鼻で笑う素振りを見せて屋敷に入っていった。


 兄のタウロを呼び止めるとジーロと二人でこの状況を聞いた。


 タウロが言うには、帰り際にランドマーク家のここ最近の快進撃を褒め讃えてきたらしい。

 タウロもエランザ準男爵は苦手らしくこれには警戒した様だ。


 エランザ準男爵は、ファーザと一時の間、世間話をしていたが、今年が不作で困っているからお金を貸してくれないかという話を切り出してきた。

 ファーザは当初、断っていたが、エランザ準男爵が同情を誘ってきてファーザも断りづらくなったようだ。

 それで、少しならという事になったらしい。


 お父さん、だから人が良すぎますって……。


 こうしてはいられない、ランドマーク家の財政面を預かる身として、お金の貸し借りの場にはいないといけない。

 リューは慌てて、執務室に向かうのだった。



 リューはすぐ、執務室に飛び込むと、


「お父さんお待ち下さい!」


 と、お金を貸そうとしているところを呼び止めた。


「今、大人が大事な話をしてる時に割って入ってくるとは!ファーザ殿、ご子息のしつけがなってませんぞ」


 エランザ準男爵がリューの邪魔をとがめた。


「どうした、リュー?」


 ファーザがエランザ準男爵の意見を無視して聞いてきた。


「親しき中にも礼儀あり。お金をお貸しになるならば、ちゃんと借用書を作ってからにして下さい」


「借用書!?」


 エランザ準男爵が動揺する。


「エランザ準男爵殿は度々父からお借りになっているご様子。いくら親しくても何度も借りていれば心苦しいでしょう。ちゃんと借用書を作って、貸し借りの事実を受け止められて、お互い返す、返される意思がある事を書類にしておかないと、このままでは隣領同士の関係的に良くないかと思います」


「確かにそうだな……、リュー、書類を作ってくれ」


「はい、わかりました」


 リューはすぐさま紙を取り出して書き始める。


「……ちょ、ファーザ殿!子供にそんな事をさせていいのですか!?」


「大丈夫です、リューはうちの財政の改善の為に帳簿も付けてくれてますから」


「あ、いや、そうじゃなく……」


 そんなこんなやり取りを大人達がしてる間にリューは借用書を作成し終わった。


「それでは、二人ともサインをお願いします」


 ファーザがすぐサインをすると、ペンを渡されたエランザ準男爵は渋ったが、仕方なくサインした。


「これで、借りた事は記載されました。期日が来ましたら、回収しますので悪しからず」


 リューはエランザ準男爵を見上げた。


 そこには悔しそうに顔を歪める男の顔があったのだった。



 お金を受け取るとエランザ準男爵はそそくさと帰っていった。

 最初からこれが目的だったのだろう。

 帰る時はあっという間だった。


 執事のセバスチャンが見送ると、


「リュー坊ちゃんのおかげで今回はただで貸す事にならずに済んだようですね」


 と、つぶやいた。


 タウロ達もホッとしたのだろう、リューを囲むと、


「さすが僕たちの弟だよ。リューの機転でエランザ準男爵の悔しそうな顔が見れたよ」


 と、みんなでハイタッチを交わした。


「リューありがとう。お前が言い出してくれたから、借用書が作れた。いかんな、私もしっかりしないと」


 隣領の当主には困っていたのだろう、ファーザは反省しきりだった。


 これからは、エランザ準男爵も気軽にうちからお金を借りようとは思わないはずだ。


 そうだ、メイドにお願いしてまた、塩を撒いて貰わないと……。


 と、思ったところに塩の入ったツボをもったメイドが現れると、玄関先に早速塩を撒くのであった。


「……うちのメイドは優秀だ」


 リューはメイドの後ろ姿に親指を立てて讃えるのだった。

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