第16話 開拓ですが何か?

 農作物の収穫時期が訪れた。

 ここ10年で一番の大豊作らしい。

 農家のみんなの表情は明るい。


「これで今年のみかじめ料は安泰だね」


「ミカジメリョウって何っすか坊ちゃん?」


 シーマがいつものリューのゴクドー用語に意味を聞いた。


「ああ、間違えた。税収ね」


「なるほどっす。コヒン豆はまだ収穫しないんですか?」


「それは、二か月後くらいかな?そっちも楽しみだね」


 コヒン豆の加工場(小屋)も、手押し車の利益で建てて貰っていた。


「それより収穫がひと段落したら、コヒン畑を拡張する為に森を伐り拓く作業があるからね。ダイチ村にもニダイ村にも、大きく切り拓く予定だよ」


「それは大変すね。自分も頑張るッス!」


 シーマの気合いの入れように頷くと、自分も頑張らなくてはと思うのであった。




 森の開拓作業当日。


「木は一々伐らなくて結構です。それはボクがやりますので。みなさんは木の運び出し、その木の枝払い、保管、あと、伐採後の整地をお願いします」


「え?伐ったり、切り株の掘り出し作業しなくていいんですか?」


 一番大変と思われる作業はやらなくていいらしい。

 それも目の前の7歳の子がそれをやってくれるらしい。


「じゃあ、始めますね」


 村人達が見つめる中、


「土ボコ!」


 リューが木の根元に向かって手をかざし土魔法を唱えた。


 ボコッ


 音と共に木の根元の土が盛り上がり、木が地面から押し上げられ、根っこをむき出しにした。

 倒れそうになる木、その瞬間、


「『収納』!」


 するとリューの手のひらに吸い込まれる様に木が消える。


 マジック収納だ。木のままでは、収納できないが、土魔法で一旦、物にする事で回収を可能にしたのだった。


 そして、すぐに後ろを向くと収納した木を待機してる村人の前に出す。


 また、前を向くと、


「土ボコ!」


 と、土魔法を唱える。

 これの繰り返しだった。


 最初、農民達は目の前に積まれていく木に呆気に取られていたが、慌てて作業に移った。

 リューにだけやらせるわけにはいかないからだ。


 そのリューは黙々とこの作業をしていく。

 側でシーマが瓶を持って待機している。


「シーマ君」


「はい!坊ちゃん!」


 シーマがリューに水の入った瓶を渡す。


 魔力回復ポーションだった。


 まだ、7歳の少年だ、魔力の限界はたかが知れている。

 魔力切れが起きて倒れる前に補充する必要があったので、シーマに持って待機して貰ったのだった。


 この魔力回復ポーション、さぞお金がかかるだろうと思うのだが、これはタダだった。

 リューの自作である。

 森に毎日入る中で薬草もよく入手していたのだが、直接、薬師ギルドに卸すと値段が安い、通常、冒険者の仕事だからだ。

 なので、自分で作れないかと試行錯誤した結果、完成したものだった。

 味は激マズだったが、効果は立証済みだった。


「不味い」


 文字通り苦虫をかみ殺すような表情をしながら飲み干すと、土魔法を唱え収納をし続けるのだった。


 あっという間に森は切り拓かれていった。

 農民達は驚き、喜び、作業していく。


 それと同時に、リューのお腹もポーションでタプンタプンだったが……。


「[マジック収納]の限界に到達しました。『ゴクドー』の能力[限界突破]により、現在の[マジック収納]の限界を突破します。[マジック収納]の容量が拡張されました」


 脳裏に『世界の声』がした。


「よし!これで、出来る事が増えたぞ!」


 タプンタプンのお腹を揺らしながら、リューは喜びにグッと拳を握るのであった。



 リューは、1本ずつしか入れる事が出来なかった『マジック収納』に試しに何本か入れてみた。

 限界をまだ感じない。


 これは、結構拡張されたのかも!


 限界を調べてみたいリューだったが、今は作業中である。

 一気に沢山収納から出しても迷惑なので数本ずつ出し、作業を続けるのであった。



 リューのお腹の限界があったので、休憩を数回挟んだが、森を切り拓く作業は順調に終わった。

 あとは農民達の仕事だ。

 リューは、整地作業をする農民達をお腹をさすりながら眺め、達成感を感じるのであった。

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