第76話 ほら、触ってみ?

 夏休みの旅行編、4回目。

 みんなして、一日目いっぱい遊んだ夜のお話。



 初めての友人たちとの夕飯は格別だった。お魚が美味しかったのも、わたしにとっては嬉しいことのひとつだった。高校生にとっては贅沢すぎる(ご厚意も含めて)モノだったけど、この際だから、美味しくいただいた。

 かと言って、このご時世で育ってきたわたしたち。大騒ぎすることはなく。最近では、いつものことになってる、『いただきます』でみんなで手を合わせる。そんな姿を見た旅館の人たちが、揃って感心していた。



 女子5人で入ったお風呂も、いつもと違う雰囲気で素敵だった。それほど大きくはない(五人で入るには広い)けど、大窓の外には、夜の海が見える。窓を開けると、波の音も小さいながら聴こえてくる。

 わたし以外の四人は、揃って日焼け痕を確認している。わたしも、けっこう赤くなっていたけど、それほどではない。まぁ、十日もすれば、元々色白なわたしは、元に戻っちゃうんだけど。でも、元に戻るまでが辛いんだよね。これ、火傷やけどと変わらないし……。



 そんなことを考えていたら、やっぱり、遅い時間になって、体が火照ってきた。

 美亜みあちゃん(仮名)に断って、海風にあたろうと思い、旅館の外に出る。あかりは、車道脇の街路灯と、背中側になる数件の旅館のモノだけだった。視線の先にあるはずの海は真っ暗で、今にも飲み込まれてしまいそうだ。

 砂浜との境にある防波堤に座り込む。


「ひな(仮名)、どうしたんだ?」


 渡瀬わたらせくん(仮名)の声が聞こえたので振り返った。どうして、ここに彼がいるのかがわからなかったので、首を傾げて見せると。


大槻おおつきから連絡もらって……。ひな、ひとりだと危ないからついててやってくれ……って」

「ごめん、心配かけちゃったね?」

「うん、まぁ、心配はしたけど。でも、旅館の中のほうが、エアコン効いてるからよかったんじゃないか?」

「そうなんだけど……、わたし、ホントはエアコンが苦手なんだよ。ほら、触ってみ?」


 日に焼けてない胸元(けっして胸……ではない!)に、彼の手をとって触らせる。触れた彼の手のほうがずいぶんと暖かい。

 わたしの、日焼けしてないそこの冷たさになのか、わたしの体に触れてしまったことへの驚きからなのか、渡瀬くんが思わず手を引いた。


「まぁ、ひなの気がすむまで、つきあうか……」


 そう言って、わたしの隣に座ってくれた。

 


 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 その後、一時間くらい、一緒に真っ暗な海を見てた。

 いろいろな話もした。わたしの水着姿に、ドキっとしてくれたって聞けたのは、とても嬉しかった。みんなの前で、もっと褒めてくれてもよかったのに……と言うと、相当照れてて無理だったらしい。

 でも、実は、会津あいづくん(仮名)と烏丸からすめくん(仮名)の、友人ふたりには見せたくなかったんだとか? 『俺の彼女だから……』って、ボソッと聞こえた。

 聞こえなかったフリしようと思ったけど、嬉しくて勝手に頬が熱くなって……無理だった。


「ありがと、大好きだよ、つかさくん」


 最大限の背伸びをして、彼の頬に遠慮気味なキスをした。顔から火がでそう……なわたしは、そこから俯きっぱなしで。

 渡瀬くんは、暫く、その場所を手で触れてた。


 うひゃぁ、やっちまった!

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