第65話 してねぇだろっ!

 テストのための勉強がまったくできなかったと、友人の大槻おおつき美亜みあちゃん(仮名)に泣きついた、現在、わたしの彼氏である、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)。

 渡瀬くんが、折衷案を示した美亜ちゃんを、お祈りするみたいに指を組んで見つめて、放った言葉は、「ありがとう、大槻さま」だった。

 何故に? 見てあげる役はわたしなのに? 解せぬ……。

 期末テストが金曜日まで……。



 期末テスト終了、一日前の木曜日が、渡瀬くんと一緒にテスト勉強をする最後の日だった。


 そして、金曜日。渡瀬くんは、試練を乗り越えた……ような顔をしていた。まぁ、よくがんばったと思うよ。わたしのスパルタ教育に、泣きそうになりながらもついてきたんだから。

 美亜ちゃんなんか、時折、『も少し、優しくしてやれよ』とか言ってたけど、そんなもん、無視だ、無視! 『自分で言い出したんだからな!』と、最後まで、わたしたちの勉強会の席につきあわせた。


「イチャイチャすんなら、わたしの見てないトコでやってくれ!」

「してねぇだろっ! 大槻には、これがそんなふうに見えてんのかっ?」


 渡瀬くんからの質問に、近づいて答えてたわたしを見て、美亜ちゃんが揶揄からかい、渡瀬くんが慌てて否定することが、何度あったことか……。

 ここ……、図書室なんだから、わたしだってそんなことしねぇって。


 どれもこれも、無事に期末テストを乗り切ったんだから、今となっては笑い話でしかない。そんなことを考えてるわたしの顔を覗き込んでくる渡瀬くん。それを見た美亜ちゃんが、同じことを繰り返していた。


「だからぁっ、イチャイチャなんてしてねぇだろっ! たまには、ホントにイチャイチャくらいさせてくれよ。なんで、大槻は、いつもいいポジションにいやがるんだよ?」


 渡瀬くん……、切実だった。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 この後、渡瀬くんから、自宅へのお誘いを受けた。美亜ちゃんとふたりして。

 お母さまが、迷惑をかけたお詫びと、勉強を見てくれたお礼をしたがってるんだそうだ。喜んでお邪魔させていただいた。美亜ちゃんはずっと緊張してたけど……。

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