第38話 振ってくれないと……

 なぜか、野球部の助っ人に呼ばれたわたし……。

 当日の顛末である。



 その日のお仕事は、一年生マネージャーの手伝いをすることだった。練習試合とはいえ、入部早々、ひとりでマネージャーのお仕事を任せるには、多少の不安があったそうだ。

 そこに、まったくの未経験のわたしが加わって、どうなると思ってるのか?


浅葱あさぎさん(仮名)なら、そつなくこなすんじゃないかと……」


 主将、それは、買い被りすぎだ。


 それから、「うちの部、女子マネがふたりもいるんだぜ、羨ましいだろ?」と、自慢もしたかったようだ。本音はそっちか? 古いラブコメの序章みたいじゃないか?



 その後、いろいろあった。


 美亜みあちゃん(仮名)たちが、遠路はるばる見に来てくれた。

 その美亜ちゃん、わたしを手招きするので近づいていくと、腕とか足とか、見えてる部分を触りだした。冷たい感触。日焼け止めを、これでもかと塗ってくれた。

 チラチラと見える、わたしの子ども体型の足に、なぜかどよめく野球部員。


「ひな(仮名)のことだから、こんなトコまで対策してないだろ?」


 まったくもって言い返せません。



 今回は、親睦も兼ねてるから……という理由で、始球式を行うんだそうだ。後輩ちゃんが尻込みするので、必然的にわたしに、その役目が回ってきた。

 控えの子からグラブを借りるけど、わたしの手には、やっぱり大きい。うん、まぁ、なんとかなるでしょ? ぽすぽすと、右手で、借りたグラブの掌部分を叩いてるわたしの姿を見て、みんながなんだか暖かい目で見てくる。


「ホームまで届かなくても問題ないから、気楽に」


 マウンド上で、話しかけてくれる主将。まぁ、普通そう思うよね。

 審判役の、我が校の監督のコールと共に、構えて……、投げる。球速はでてないけど、ノーバウンドでキャッチャーのミットに届いた。ストライクだ!

 我が校の監督が務める審判も、キャッチャーも、そして、わたしの隣に立っていた主将までもが、口が開いたままだ。バッターなんて、目を大きく見開いたまま固まっている。


「振ってくれないと……」


 そう、バットを振ることすら忘れていたようだ。

 わたし、小さい頃から、お父さんとキャッチボールとかしてたからね。これくらいならたいしたこともない。

 自陣のベンチに戻ったら、後輩ちゃんが、キラキラした目をして出迎えてくれた。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 まぁ、マネージャーのお仕事は、後輩ちゃんに聞きながら、なんとかがんばった。

 試合結果は、我が校は2連勝。でも、試合が終わった後がたいへんだった。


 相手チームの野球部員たち何人にも囲まれ、質問責めにあうハメになった。まるで、ヒーローインタビューのようである。

 後輩ちゃん、笑いながら見てないで、助けにきなさい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る