第542話 スケルトンのお酒(三つ目)
ミナトは三つ目のお酒が注がれたボトルを手に取る。これは騎士の一人であるらしいキリッとしたゾンビさんが樽からボトルへと移し替えてくれたものだ。
そんなボトルは赤みの強い琥珀色の液体で満たされている。コルクと思しき栓を開け香りを確かめるミナト。どんなお酒なのかは漆黒のスケルトンから聞いているが香りを確認してミナトは確信に至る。
「それがアンデッドたちと共に封印されていた最後のお酒なの?」
先ほどまで身振り手振りのみであるレイスとグールを相手に器用に会話を成立させていた絶世の美女であるエルフ……、シャーロットがミナトの隣からボトルを覗き込んでくる。
「ああ。とうとうこれも手に入ったよ。飲んでみる?」
嬉しそうなミナトはシャーロットにそう返し
【収納魔法】
時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?
ジガーとも呼ばれるメジャーカップを使用してミナトは赤みがかかった琥珀色の液体をテイスティンググラスへと注ぐ。その所作は相変わらず洗練されていて美しい。
「先ずは香りを確かめてみて!」
ミナトの言葉に素直に従うシャーロットはテイスティンググラスをゆっくりと回してお酒の香りを確かめる。シャーロットのような美人のエルフが優雅にテイスティンググラスを傾けてお酒の香りを確かめている様子は本当に絵になる光景を創り出す。そしてその琥珀色の液体を味わう姿はもはや芸術作品のような美しさだ。
そんなシャーロットの様子を視線の端に捉えつつミナトも自分用にテイスティンググラスへと注ぎ香りと味を確かめる。そうして自然と笑顔になるミナト。
「ミナト!これもスゴい!ブランデーに似ている……、とても華やかな香りと味わいのお酒だわ!でもこれって葡萄じゃなくて……、えっと……、あ、これってリンゴの香りじゃない!?」
シャーロットの回答に笑顔のまま頷くミナト。
「正解!これはリンゴで造られたブランデー。おれのいた世界ではアップルブランデーって呼ばれていて特に有名な地方のものはカルヴァドスって呼ばれるお酒と同じものかな」
「かるゔぁどす?」
「そうカルヴァドス。漆黒のスケルトンさんは林檎酒を蒸溜したお酒って言ってて名前がなかったらしいからもうこれはカルヴァドスと呼ぶことにしよう!そうしよう!」
漆黒のスケルトンさんの話ではこの世界に林檎酒……、ミナトが話しを聞く限りではおそらくシードルだと思われるお酒は二千年前に大陸の北方で生産されていたらしい。その頃から蒸溜の技術もあったらしいが、林檎酒を蒸溜するという行為は行われていなかったのとか。ブルードラゴンからワイン造りの技術を提供され、さらにドワーフとのなんらかの取引で蒸溜技術を得た好奇心旺盛な漆黒のスケルトンさん達は林檎酒の蒸溜を決意。結果としてカルヴァドスが造られたということらしい。
「どこまで本当かは分からないけど漆黒のスケルトンさんはそう言っていたよ?アンデッドってお酒が好きなのかな?」
そうシャーロットに投げかけると、
「さっきレイス達から聞いたけど闘争にお酒は不可欠ってことらしいわよ?」
そんな回答が返ってきた。
「なにその発想……、騎士団としての規律は重んじる戦闘狂ってことかな……?」
ものすごい危ない騎士団を想像するミナトだが……、
「でもおかげでカルヴァドスが手に入った!それでいいや!」
晴れやかな表情で他の疑問点から目を背けるミナトである。
「ねえ、ミナト?」
そんなミナトにシャーロットが、
「ブランデーはとても美味しかったけどカクテルにも使っていたじゃない?このカルヴァドスもそのままで美味しいけどカクテルにも使えるのかしら?」
シャーロットの素朴な疑問をミナトは最高の笑顔で肯定するのであった。
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