第541話 そして宴会へ
月明かりに照らされるクラレンツ山脈の森の中。盛大に焚かれた数多の篝火の下、酒宴は盛況を極めていた。ちなみにだが貴腐ワインとブランデーだけではなく、ブルードラゴンの里産であるワインやアースドラゴンの里産であるウイスキーもその樽が開けられている。
そこには土魔法で造られた大理石を思わせる美しいテーブルとイスを使用してこのひと時を楽しむ多くの者たちの姿があった。だがこの様子をA級冒険者のティーニュや今回の旅を主導しているカーラ=ベオーザなどが見たらどのような表情になるであろうか……。
ミナトの眼前には多数のアンデッドが言葉を発さず身振り手振りでシャーロットたちと楽しそうにお酒を楽しむ光景が広がっている。そんなミナトの傍には【闇魔法】の
ファーマーさんとの模擬戦の最中、本気モードに入ったのか、もの凄くヤバそうな瘴気を放出し始めた漆黒のスケルトンを見たシャーロットはミナトに
それに応じてすぐさま漆黒の鎖で同じ色合いのスケルトンを捕縛したミナト。
そのためか拘束された漆黒のスケルトンはその場で意識を失いシャーロットが危険と言った瘴気の発生も停止した。そしてそれと同時に漆黒のスケルトンの身体から数多のアンデッドが飛び出してきたのである。
彼らは漆黒のスケルトンが騎士団長を務める騎士団のメンバーであり、現在は漆黒のスケルトンの眷属でもある。漆黒のスケルトンは眷属である彼らを自身へ取り込むことで能力の底上げを行っていたのだがどうやらそれがスキルと判定され無効化された結果、眷属たちが現れたらしい。
「それは皆さんも……」
ということで酒宴にご参加頂こうとしたミナトだが、このアンデッドたちは話すことができなかった。
『確かにスケルトンとかレイスには声帯がないし、ゾンビとかグールっぽい魔物とかって声帯の辺りがグズグズで……。ロビンも初めて出会った時、首から上がない状態では話せなかったし……。スケルトン状態で話せたファーマーさんとか漆黒のスケルトンが特別だったってことかな?』
そう考え納得することにしようとするミナト。さらに念話も通じなかった。こちらはシャーロットによると、
『あの漆黒のスケルトンとの魔力的な関係性を優先しているために他者の念話が届かないみたいね』
とのことだった。この辺りは漆黒のスケルトンが目を覚ましてから確認するとのことである。
そんなアンデッドたちだがこちらの言葉は分かるらしく身振り手振りを駆使しつつ、騎士の礼節を弁えて酒宴に招かれたことに感謝しお酒を楽しむ彼らの姿にミナトは好感を持つのであった。
「あら?あなた達もあの戦いに参加していたの?退却時は
「うむ!思い出したぞ!貴殿らはあのレイスとグールであったか!我らの視界を遮ったあの広域魔法は敵ながら天晴れであったと皆で話したものだ!」
「ん!あの隙に撤退を完了されたことはよく覚えている!」
相手は身振りと手振りしかしていないのだがコミュニケーションに全く問題がないらしいシャーロット、デボラ、ミオがレイスとグールの集団と昔話に興じている。絶世の美女たちが霊体っぽい魔物とほぼゾンビな外見をした魔物と談笑する光景はなかなかにファンタジーだ。
『霊体っぽいレイスは分かるけどあのグールさん達は魔法を使うんだ……。これもまたファンタジー……』
などと思っているミナト。
シャーロットたちだけでなく、ナタリアやオリヴィア、ピエールまでも別のスケルトンやゾンビたちとにこやかに会話している。可愛らしい幼女モードのピエールが見た目のインパクトが強めなデロデロ系ゾンビさんと楽しげに会話している光景は……、こちらも実にファンタジーと言っておくことにしよう。
視線を移せば骨太で大柄なスケルトンがデュラハンモードのロビンとアームレスリングに興じている。もう一方でアンデッドの観衆を集めて、斥候と思われる装備のゾンビがファーマーとナイフによる的当てで対決しかなりの盛り上がりを見せていた。
『ファーマーさんってナイフ投げもできるんだ……』
もはやミナトによるエルダーリッチのイメージはバリバリの物理な戦闘職である。
「さてと……」
じきに漆黒のスケルトンも目を覚ます。そう感じたミナトは漆黒のスケルトンからもらった三つ目のお酒を味わうことにするのであった。
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