第515話 ティーニュからの話

 ペンネアラビアータに続いてミナトが得意とするカルボナーラも素晴らしい出来だった。


 十分に食事を楽しんだミナト、シャーロット、デボラ、ミオ、ピエール、そしてA級冒険者であるティーニュの六人。現在もテーブル代わりに使用している広い調理台を中心に寛いでいる。


 周囲の商人達の視線はペンネアラビアータやカルボナーラといった見たこともないパスタ料理に注がれていたが、周囲にいた冒険者達の反応からか声をかけてくる者はいない。


 ちなみにシャーロットによる防音の結界は絶賛稼働中である。防音の結界とは呼ばれているがおそらく普通の人族や亜人では突破できないものだろう。


「それで?打ち合わせと言っていたけれど、どんなことを話していたのかしら?」


 食後酒である透明なお酒が注がれた小さめのワイングラスを傾けつつ、シャーロットがティーニュに問いかけた。シャーロットの横にはグラスを持つシャーロットの指先の美しさを再確認しつつも、


『アルカンさんにマール用のグラスをお願いしないと……』


 などと考えているミナトが隣に座っている。


 今日の食後酒はブルードラゴンの里で造られたマールである。ミナトがマールと呼び名を決めたのだが、今日の夕食がイタリアンだったので今日のところは食後酒の名前をグラッパと呼んだ方が相応しいかもしれない。


 ティーニュもそんな食後酒のグラッパが注がれた小さめのワイングラスを手に、


「はい。まずあの神殿騎士が王国民にバルトロス教の勧誘と称して支配ドミネイションの魔法を使っていたことはお伝えしました……」


「物的な証拠がないってことになるかしら?」


 そんなシャーロットの言葉に頷くティーニュ。


「ええ。ですが正気を取り戻した王国民達全員が家に帰りたいと願っているのでこれに関してバウマン辺境伯家が責任をもって対応するとのことでした。バルトロス教からの横槍は入れさせないとロバネス様が仰っていましたね」


『よかったです……』と最後に小さく呟き笑顔になるティーニュ。


「ロバネスってカーラさんと知り合いだったこの野営地の責任者だよね?元騎士みたいだけどティーニュさんは知り合いだったの?」


 ミナトの問いにティーニュは首を横に振る。


「いいえ、私が存じ上げているにはお名前だけで本日初めてお会いしました。バウマン辺境伯家の騎士団で団長を長く務められた騎士であり、以前は王都の騎士団にも所属していたようです」


『元辺境伯家の騎士団長さんか……、強そうだったもんね』

『そうね。人族に中ではかなり強いわ』

『うむ。なかなかやるものよな』

『ん!でもマスターなら瞬殺!』

『楽勝デス〜』


 心の中の呟きが漏れたのかみんなから念話が返ってくる。ミオとピエールがその見た目に反して念話が好戦的なのが多少気になるが、


「それであのブランディルとかいう神殿騎士ともう一人いた女性の神殿騎士については?」


 次に問いに移るミナトである。


「女性の神殿騎士が懇願したとのことで、今夜はこの野営地に滞在するようです。原因は不明ですがブランディルの意識が回復しないとか……」


『あはは……、ちょっと効きすぎたかな……?』


【闇魔法】の堕ちる者デッドリードライブで意識にデバフをかける形で刈り取ったとは言いたくないミナトであった。


「あとその行動は目に余りますが、ロバネス様……、と言いますかバウマン辺境伯様の方針のようですが神殿騎士の身柄などはあまり邪険にできないようです。詳しくは教えて頂けなかったのですが、その後がいろいろと大変になるようですね」


 その表情に不快感を表せながらティーニュがそう教えてくれた。


「神殿騎士はバルトロス教における高位の司祭と同格な存在で政教が一致している神聖帝国ミュロンドでは国の要人扱いになるとかかな?」


 そんな予想を呟くミナト。


「おそらくそんなところかと思われます。意識が回復したらブランディルと女性騎士は放免とし、後に報告を受けたバウマン辺境伯家がバルトロス教と落とし所を見つけることになるかと……」


『こんなことがちょいちょいあるならバウマン辺境伯も大変だろうね……。これは領主が切れ者じゃないとダメなやつだ……』


 しみじみとそう思いながら食後酒を味わう。高いアルコールと仄かに感じるブドウの香りが素晴らしい。


 そうしてそんな話から話題は様々な方向へと枝分かれを始める。美味しい食事に満足してくれたからか美女たちの笑顔が嬉しいミナト。肩の上ではピエールが揺れている。


 冒険者、商人、ウッドヴィル家一行、神殿騎士、そしてミナトたち……といった様々な者達にとっての野営地での夜がゆっくりと更けてゆくのであった。

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