第503話 サイドカー完成

 ここは世界最難関とされているダンジョンの一つである『水のダンジョン』の最下層にあるブルードラゴンの里。


 太陽がなくても明るかったブルードラゴンの里だがどういうわけか徐々に夜の帷が降り始める。


 そうして広場では着々と宴会の準備が進められていた。その準備の様子をよく見ると人の姿をとったレッドドラゴンやアースドラゴンもいる。ミナトの転移テレポによる魔法陣のおかけで現在は里を自由に行き来しているらしい。


 そうして程なくして宴会に準備が完了する。料理はブルードラゴン達に任せたのだがテーブルに並べられるのはアクアパッツァ、アイオリ、そして生牡蠣とカキフライ……。


 白身魚とアサリをふんだんに使用し、たっぷりのニンニクとミニトマトと共に塩で味を整えつつ白ワインと水で炊くように仕上げたアクアパッツァはふっくらと仕上がった白身魚が実に美味しそうである。


 イタリアンのアクアパッツァから一転してフレンチのアイオリは水に浸けてもどした干しダラと茹でた野菜をたくさん盛り合わせてそこにアイオリソースを添えた料理。すりつぶしたニンニク・卵黄・オリーブオイル・レモン汁・塩・胡椒を混ぜて作られるマヨネーズのような外見をしたアイオリソースがたまらない一品だ。


 生牡蠣とカキフライに解説は不要だろう。


 そんなどれもワインが欲しくなる料理が並んだところで、


「あらあら〜?素敵なお料理ですね〜」

「マスター!お声をかけて頂きありがとうございます!」

「かたじけない!」


 ナタリア、オリヴィア、ロビンも来てくれた。


 さらに、


までお声がげ頂ぎ恐縮だ!」


 ダンディかつ今にも『我は神の代理人』とか言ってしまいそうな風貌のファーマーさんも来てくれる。今日のアクアパッツァのミニトマトもアイオリの野菜も全てファーマー印の最高品なのだ。


 そうして、


「乾杯!」


 ミナトの乾杯の言葉で宴が始まった。


「……さてと……」


 軽くワインを口に含んだミナトはそう呟きながらカクテルに準備に取り掛かる。


 シャーロットたちはもちろんミナトに注目しているが、談笑している様子のドラゴンさん達も視線の端ではミナトの姿を捉えているようだ。そんな状況を知ってか知らずかミナトはテキパキとテーブルに数少ない魔道具による成功例となったブランデー、オレンジリキュール、そしてスクイーザーでギュッと絞ってレモン果汁を用意する。


 せっかくブランデーが手に入ったのだ。最初に造るカクテルは決まっている。


 シェイカーにジガーとも呼ばれるメジャーカップを使ってブランデーを三十mL、オレンジリキュール十五mL、レモン果汁十五mLを注ぎ、バースプーンで撹拌し味を確認。このカクテルの素材であるブランデーに出会うまでの異世界での長い日々を噛み締めつつ、氷を投入し、しっかりとシェイカーの蓋を閉めシェイク。十分に温度が下がったことを確認しこれまたしっかりと冷やしておいたショートグラスに静かに注ぐ。全員分を一度に造ることは難しいので順番だ。


 そうしてカクテルが出来上がる。


「サイドカーです!」


 笑顔でグラスを差し出す。とうとうこのカクテルまでも異世界で造ることができた喜びに心震えるミナトであった。

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