第479話 お堀と城壁と城門と

 シャーロットたちの案内による魔を統べる御方の居城としか思えない外観を持つお家の内覧は続く。


「二つ目の堀はミオの力作ね!」


 シャーロットに促されて二つ目の堀を除くミナト。一つ目の堀より幅が広く空でも飛べない限り飛び越えるのは難しそうである。


『あれ……?』


 心の中でそう呟く。堀にみっちりと詰め込まれた大量のブラックスライムが蠢めいているもの凄ーーくヤバい一つ目の堀とは違い、二つ目の堀には素晴らしい透明度の青く澄んだ水が湛えられていた。


「シャーロット?こっちは普通のお堀?魚釣りとかできそうな……?」


 そう口に出してみるがそんなミナトにシャーロットはちっちっちと指を振る。


「ミナト!それはミオの術中に嵌っているわよ?」


「ん。この堀は浮上不可の効果が付与されている。ボクたちが使う水魔法の極みである大海嘯タイダルウェイブにはこの効果があってその効果のみを取り出してこの水に付与した。堀に落ちた存在は底まで引きずり込まれ水面より上に浮かぶことは決してできない!」


「なにその極悪な効果……」


 得意気なミオの説明に身震いしながらそう呟くが……、


『あ……、グランヴェスタ共和国の首都であるヴェスタニアの北にあった魔物が溢れたダンジョンでおれが使った魔法もそんな効果があった気が……』


 そんなことを思い出すミナト。ミナトはシャーロットたちに贈った指輪の素材としてシルバーラグという魔物の尾羽である『銀の尾羽』を探して首都ヴェスタニアの北にあるダンジョンに潜った際、ファイアドランカーと呼ばれる炎を纏った巨大な鳥型の魔物の群れと対峙した。そこで水竜の息吹アクアブレスという名で水竜の息吹タイダルウェイブという魔法を発動し、発現した大海嘯で魔物の群れを一掃したのだが、その途中、流される魔物が不自然に水中に引きずり込まれて絶命し素材へと変わる瞬間を目撃していたのである。


 そういう魔法だったのかとちょっと納得してしまうミナト。かなり物騒な魔法なので使いどころは気を付けようと心の中で誓ったのであった。


「ピエールちゃんの一つ目の堀を突破できたとしても間違いなく満身創痍よ。そんな状態でこの二つ目の堀を越えることはまず不可能ね」


「攻略するなら門を突破するか、堀に橋を架けるくらいしかない?」


「そうそう!このブラックスライムたちって今は堀の中にいるけど堀の縁まで上がって来ることも可能なの。その場合は基本的に一つ目の堀に近づいた時点で全滅よ?ブラックスライムの酸弾もエンシェントスライム並みに強力なの。二つ目の堀は謂わば保険よね?」


「堀に近づいたら迎撃される?」


「無許可で近付く者に対しては酸弾の届く範囲であれば堀の外へ攻撃して構わないってことにしてあるわ。不用意に近づくものは酸弾で殲滅って感じかしら?この守りの状態で陸上からの侵攻は二千年前の魔王軍でも不可能と言えるわ」


 シャーロットが胸を張り、堀の監修を務めたピエールとミオがそれに続いて可愛らしく胸を張る。


「マスターよ!そのことについては魔王軍で先陣を切っていた吾輩が保証しよう。マスターにテイムされた今の吾輩であればこの命を代価に突破を試みることができるかもしれぬが二千年前の吾輩ではまずもって不可能であろうな」


 ロビンが力強くそう言ってくれるが……、


『なんだろう……、安全なのは分かるし嬉しいけど……、どう考えても過剰防衛なんじゃ……』


 そんなことを考えるミナト。そうして一行は城壁と城門の近くまで移動する。


「高い……」


 思わずミナトとがそう呟く。城壁の高さは五十メートルを優に超えると思われた。そしてその城壁の一画に高さ五メートル程はある巨大で分厚そうな金属製の門が設置されていた。


「次は城壁ね。城壁はさっきも言ったようにオリハルコンを中心にアダマンタイトを使って造ったの。堅牢であることとデザインを何よりも重要視した最高の城壁だと思うわ!この辺りは最高のオリハルコンとアダマンタイトを揃えてくれたナタリアとアースドラゴンたちの功績ね」


「うふふ……、『地のダンジョン』の最下層で採れる最高品質の素材のみを惜しげもなく使わせて頂きました~。かつての魔王の配下でシャーロット様が黒焼きにしたブラックドラゴンのブレスでも傷一つ付きませんよ~」


 シャーロットの説明にナタリアが嬉しそうにそう言ってくる。


「えっと……、シャーロット……、その黒焼きにしたブラックドラゴンってのは……?」


 以前、デボラからそんな話を聞いたことがあるような気がするミナトが問いかけると、


「あの時は本気で極大魔法を使ったから全部まとめて黒焼きにしたけど、ブラックドラゴンは魔王の最高戦力の一つとされていたわ。世界の属性を司るドラゴンたちとは全く異なる竜種だけど二千年前でその力はほぼ互角じゃなかったかしら?闇属性を纏ったブレスは驚異的な威力を誇っていたけどこの城壁はそんなものでは傷一つ付かないくらいの強度を実現できたの!」


 なにかもの凄い強度の城壁らしい。近づいて自身の手で触れてみるミナト。オリハルコンもアダマンタイトも鉱石で精錬すれば金属のようになると思われる。だが触った感触は、


「金属というか石というか……?」


 その中間と思われる不思議な感触だが表面自体は非常に滑らかであり、見上げるとやや反り返るように造られたこの高い高い城壁を道具無しによじ登ることは不可能であると言えた。


「難攻不落感がスゴイ……」


 呆然としているミナトを残しつつ、シャーロットたちの視線は城門へと移る。青みがかかった金色とも銀色とも言えそうな不思議な色合いの金属製による城門だ。ドラゴンをあしらった見事な装飾がほどこされている。


「この城門はアダマンタイトにミスリルを加えた合金製でブルードラゴンの魔力とアースドラゴンの魔道具の秘術を使って不壊の付与を与えているわ!こんな付与ができたのはまさに奇跡って感じよ?それでいろいろと試してはみたのだけど不壊の付与ってこの素材でこのサイズにしか付けられなかったの。だからそれをそのまま城門にしたってわけ。本当は城壁とかいろいろなものにも付与したかったのだけどそれは目下研究中って感じね」


 笑顔でそう言ってくる美人のエルフ。


『なんだろう……、城の中に入る前から既にお腹が一杯な気がしてきた……』


 シャーロットにやや引き攣った笑顔を返しつつそんなことを考えるミナトであった。

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