第477話 美味しいネギ料理とは?
「これは美味い!鳥肉も美味いけどそれ以上にネギが美味い!ねぎまってこんなに美味しかったっけ?」
これがファーマー
シンプルに塩のみを振られただけであるが炭火によって絶妙にジューシーに焼き上げられた鳥肉と外側にはネギ独特の歯応えを残しつつもトロットロになった中心部には想像以上の甘みを湛える見事な焼きネギ、双方の旨味と風味が口腔内で渾然一体となり至福の味わいを生み出している。しつこさなどは微塵も残さずさっぱりとした後口は素材の良さと調理技術の高さによるものだろう。
「スパイス焼きも美味しかったけどこちらのシンプルな味も美味しいわ!それにこのネギ!本当に美味しいわね。ファーマーって魔法に関して超一流であることは知っていたけど農業の腕も一流かもしれないわね?」
「うむ。鳥肉とネギの相性がここまでよいとは知らなかった。グランヴェスタ共和国の名物ということだがやはり料理に関しては我らよりも人族や亜人の方が一枚も二枚も上手であるな!」
「ん!あつあつ!ウマウマ!」
「塩味でしょうか?滋味深い味わいが後を引きます〜」
シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリアはねぎまのシンプルな味が気に入ったらしい。
グランヴェスタ共和国にねぎまを広めたのはかつて日本からこの世界にやってきたであろうヒロシという人物であると確信めいたものを感じているミナト。
このヒロシとは三百年前にこの世界に転生した日本人で特別なスキルなどは持ち合わせていなかったらしいが、大きな商会を率いて商人として活躍し、グランヴェスタ共和国建国にも多大な影響を与えた偉人として知られている。当然の如く既に故人ではあるが、現在のグランヴェスタ共和国でも食文化や温泉街といったものに彼の影響は色濃く残されている。アースドラゴンの長である当時のナタリアとも面識があったらしい。
『この大陸の東の方では醤油や味噌が作られているらしいけど、今でもグランヴェスタ共和国やルガリア王国での入手は困難だ。三百年前では和食の再現は尚更不可能だったに違いないからアメリカンな料理を広めていたみたいだけどねぎまは再現していたんだ……。やっぱり食にかける情熱がすごい』
こだわりの人物であったらしいヒロシにそんなことを思うミナトである。
『ミナト?念話が漏れているけど私から見たらあなたのお酒や食事にかける情熱もなかなかよ?日本人ってみんなそうなのかしら?』
どうやら考え事が念話となってシャーロットに届いてしまったらしい。
『そうかな?でも確かにおれのいた日本って国は美味しいものにこだわりがあったかも……、あはは……』
人のことは言えないものだと自己を認識するミナトであった。
「マスター!これは美味しいです。非常にシンプルなのに奥深い味わいを感じます!」
「お肉モ、おネギモ美味しいでス〜」
「ただ焼いただけの肉の筈なのにこの美味さはどう言うことなのだ?そしてこのファーマー殿のネギの美味さたるや!口の中がひと時至福に埋め尽くされるようだ!」
オリヴィア、ピエール、ロビンの三人もねぎまを気に入ったようである。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ!こんなに喜んでもらえるならこのネギを定期的に仕入れてねぎまもグランドメニューに加えることを検討するぜ!」
満足げにそう言った店主であるお兄さんは『屋台は祭りの間だけで俺の店はここだ!』と簡単な地図が記載されたカードをくれる。美味しかったことを改めて伝えて代金を払い笑顔でお兄さんには別れを告げて次の屋台の物色を始めるミナトたち一行。
「本当に美味しかった……。あのネギならカルソッツも行けるんじゃない……?あれ?ソースの作り方は聞いたことがあったはずで……」
不意にそう呟いたミナトに全員の視線が集中する。
「ミナト?そのかるそっつというのはどんな料理なのかしら?」
「うむ?マスターが作るネギ料理か!?」
「ん!既に美味しそう!」
「あらあら〜?実に興味深いですね〜?」
「マスターの料理は美味しいですからね!興味があります!」
「マスターはその料理を作れるのですカ〜?」
「ほう、マスターの料理とはさぞかし絶品のネギ料理なのだろうな」
絶世の美女たちから熱い視線が注がれる。
『カルソッツのネギは焼くだけだから【闇魔法】の
どうやらなんとかなりそうであると判断し笑顔になるミナト。
「カルソッツってシンプルだけど美味しいネギの料理なんだ。今日は冬祭りの屋台で食べ歩きだけど、今度ファーマーさんのところで材料を揃えて挑戦してみるよ!」
そう提案すると美女たちから歓声が上がる。
「ミナト!新しいお家の厨房で作ってみない?」
片目を瞑りながら美人のエルフがそう提案するのであった。
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