第474話 冬祭りの見物へ
「ウフフ……、素敵よね……」
左手の薬指に嵌った指輪を眺めつつ美しく咲いた花のように、華やかな笑顔見せるのはシャーロット。ニット帽を被ってはいるものの冬の陽光に照らされた金髪はいつにも増して美しく輝き、水際立ったその容姿は冬の蒼天にとてもよく映えている。王都の住民が好んで纏う魔物の皮と毛糸を用いた平凡なコートが逆にシャーロットの美しさをより一層際立たせていた。
「うむ。素晴らしい指輪だ。まさか魔道具になっているとは思わなかったがな……」
感心するかのようにそう呟くのはデボラ。暖かい時期に身に纏っていたスカート部分に大胆なスリットの入った赤を基調にした民族衣装風の装いには冬バージョンがあったらしい。基本的な構造は普段より厚手であるモコモコ系の生地で作られた民族衣装風の装いもとても似合っていた。ただし大胆なスリットはご健在でその隙間からブーツに加えて網タイツとガーターベルトがチラ見する破壊力は凄まじい。
「ん。みんないっしょ!」
そう言って満足げな表情を浮かべるのはミオだ。デボラとは色違いである青を基調とした冬用の民族衣装風の装いが少女姿のミオにはよく似合う。ただしこちらのスカートにはスリットは入っていない。そして指輪が嵌められているその左手はミナトの右手に収まっている。傍から見れば兄妹か親娘か……、職質されそうな関係か……、といったところだが、普段は無表情なミオがにぱっと楽しげな笑顔を見せているので問題ないことにする。
「うふふ〜。素晴らしい贈り物を頂きました〜。オリハルコンはこの指輪に使ったのですね〜」
左手を見つめながらニコニコとした笑顔を絶やさないのはナタリアである。いつものベージュを基調としたエプロンドレスに冬用として厚手にあつらえたニットのカーディガンを羽織っている。エプロンドレスにカーディガンという謂うところのゆるふわ系の装いである筈なのだが、ナタリアのようなそれは見事なスタイルが纏ってしまうとその事情が変わってくる。当の本人はニコニコしているだけなのだが驚くほど妖艶な色香を周囲に撒き散らしてしまうのであった。
「これからも未来永劫……、私はマスター忠実な僕です……、
頬を赤く染めながらもキリッとした表情を保ってはいるが後半の呟きが不穏なものに感じられるのはオリヴィア。なんとかケモ耳とシッポは引っ込めたらしく、黒を基調にした執事服の上にこれまた黒を基調にした男性もののコートを羽織っており、その中性的な整った顔立ちと相まってこれまで以上に男装の麗人感が強まっている。中性的な美しさもここまで来ると性別がどちらであっても関係がなさそうに思えてきてしまい変な感覚に囚われるミナトであった。
「マスター!アリガトウございまス〜」
細くて可愛らしい左手にある指輪を空にかざしてそう言ってくるのはピエールだ。放っておくと人型になった際、裸足に白いワンピース姿となることが多いピエールではあるが今は厚手の上下と長靴というきちんとした冬の装いに身を包んでいる。ただしピエールの声はミナトの頭の上の方から聞こえてくる……、見事な肩車状態になっているのであった。ミオの手を引き幼女状態のピエールを肩車……、微笑ましいのか、怪しいのか……、評価の分かれるところであった。
「ふふ……、マスターからこのような褒美を頂くことになろうとは……」
ニンマリとした笑顔を浮かべてそう呟いているのは黒髪長髪にスレンダーな肢体、つぶらな赤い瞳が特徴的な美女……、ロビンである。いつも纏っている漆黒のドレスの上に鎧姿の騎士が羽織ることもできるようなオーバーローブを纏っている。おそらく
つまり……、マティーニでの乾杯を済ませたミナトたち一行は、ミナトがミオの手を取り、幼女のピエールを肩車して、その傍にシャーロット、デボラ、ナタリアがいて、オリヴィアとロビンが従者の如く付き従っている状態で王都の冬祭りの見物に繰り出したということになる。
ものすごく人目を引く状態だがシャーロットたちはそんなことを気にしない。程なくして多くの出店が出店している通りに出る。
「ミナト!あれってミナトの世界にあったっていう焼き鳥じゃない?」
大層気取った文字で『ロックバードのスパイス焼き』と書かれた看板を掲げる屋台からはとてもよい香りが漂ってくるのであった。
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