第473話 今日という日に乾杯を!
小箱を開けたシャーロットたちの目に飛び込んできたのは一つの指輪。
それはすらっとしたリングに
ミナトが拘った冒険の邪魔にならないシンプルで機能的で美しいデザイン。ミナトの要望を可能な限り反映した宝飾職人のカムシン渾身のデザインである。
「素敵……、ミナト?これを私たちに……?」
美人のエルフからの問いかけに頷くミナト。
「王都の冬祭りの伝統で大切な人に贈り物をする習慣があるって聞いたんだ。シャーロットはおれの命の恩人で大切なパートナーだし、デボラもミオもナタリアもオリヴィもピエールもロビンも大切なパートナーで家族だから何か贈り物をしたいと思って……」
何故か気恥ずかしくなってしまいちょっと早口でそう答えるミナト。
「ミナト……」
「うむ……。美し見事な逸品だ。まさかこのようなものを頂けようとは……」
「ん。とても素敵!とても嬉しい!」
「あらあら〜、まさかこのようなものを頂けるなんて〜」
「マスターのお心遣い痛み入ります。マスターにさらなる忠誠を……」
「キレイデス〜、人の姿にならないト〜」
「このような素晴らしい品を吾輩に……」
どうやらみんな喜んでくれているらしいことに安堵するミナト。すると指輪を手にしたシャーロットがミナトへと歩み寄って……、
「本当にありがと……、でもズルいわよ?」
その言葉と同時に、
とすん……。
シャーロットの額がミナトの胸に当たる。そのまま身体を預けるように寄り掛かるシャーロットに焦ったミナトがシャーロットを抱きしめる。久しぶりの甘い香りとその柔らかさに少々落ち着かない気持ちになってしまうミナト。
「何かをしていたのは知っていたけど、教えてくれたっていいじゃない?王都の冬祭りに贈り物をする習慣なんて知らなかった……。こんな……、こんな素敵な指輪を……、私からは贈り物なんて用意してなかったのに……」
ひしっと抱きつく形のシャーロット。心なしか声が震えている気がする。
「シャーロットには命を救ってもらったし、今この世界で楽しく過ごしていられるのはシャーロットとみんなのお陰だからね。おれとしては貰ってばっかりな感じなのだけど……」
「むぅ。そんなことない……、ミナトに出会ってからの私には幸せなことばかりなのに……」
可愛らしく少しむくれたような声を上げる美人のエルフ。額をミナトの胸にくっつけたままなのでその表情を見ることができないのが残念である。
「うむ。我はマスターのお陰で里にいたのでは絶対に経験できぬ素晴らしい経験をさせて貰っている」
その台詞と共にシャーロットを受け止めていたミナトの右手をその見事な胸の谷間へと抱き締めるデボラ。
「ん。マスターと会えてよかった。ボクも幸せ!」
少女姿のミオがミナトの右の腰あたりにぴとっとくっつきつつそう言ってくる。
「
いつの間に背後を取られたのかナタリアのほっそりとした白くて美しい腕がミナトの身体を抱き締める。背中に感じる柔らかくて大きな二つの感触が悩ましい。
「私はこれまでもこれからもマスターに忠誠を誓うのみですので!」
シャーロットを抱き締めていた左腕を奪いひしっと抱き寄せるのはオリヴィア。いつの間にかケモ耳が現れ、シッポが嬉しそうに揺れている。
「マスターのことは大好きデス〜」
ミオと同じ側……、右の太ももあたりに幼女モードのピエールがくっついてきた。これはミオを超える犯罪の香りがする光景になっているような気がする。
「吾輩もいつもマスターと共にあるのだ!」
唯一空いていた左側の腰に黒髪のロビンが抱きついてきた。人の姿では細身のロビンだがそのホールド力は驚くほど強い。
「あはは……」
戸惑いながらも嬉しいミナトが恥ずかしそうに笑うが……、
「あなた達……、気持ちはとても分かるけどもうちょっとくらい私の時間があってもいいんじゃないかしら?」
ミナトにくっついたままのシャーロットがそう呟く。しかしデボラ以下全員が沈黙しそのままに幸せな時間が続行される。
「もう!」
そう言ってシャーロットが顔を上げた。その目は潤んでいるがとびっきりの笑顔である。
「私もミナトに贈り物をするわ!何か欲しいものってある?この世界の理……、っていうのでは味気ないかしら……?」
『え!?』
シャーロットの言葉にミナトが驚くと同時に、
「うむ?シャーロット様!それは反則では?マスター!レッドドラゴンの素材であればいくらでも……」
「ん。シャーロット様もデボラも抜け駆けはズルい!ブルードラゴンの素材ならボクも負けない!何頭分でも用意する!」
「あらあら〜?アースドラゴンの素材ではいけませんか〜?全身標本でもご用意しますよ〜?」
「我が同族は数が少ないと思いますが一頭ぐらいでしたらこの私が剥製にして……」
「マスターにとって不要の存在を消去しマス〜」
「吾輩の魔剣コレクションから禁忌の禁忌かつ最凶最期とされる伝説の一振りを……」
デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンがとんでもないことを言い出した。いや……、シャーロットの提案も相当にヤバそうである。
「みんな!ダメだからね!?そんな無茶はしないでね!?みんなには新しい家を造ってもらえるし、それで十分だよ?あとは今度みんなで温泉にでも行こう!」
ミナトの言葉にその場が一段と盛り上がる。
「ミナト!カクテルを造ってくれない?今日という日を忘れないように乾杯したいわ!カクテルは……、マティーニなんてどうかしら?」
「うむ。賛成だ!」
「ん。王様のカクテル!マティーニがいい!」
「そうですね〜」
「マティーニは素晴らしい選択です!」
「美味しいですヨネ〜」
「マティーニか!素晴らしい選択である!」
シャーロットの言葉に全員が賛成する。頷いたミナトがカクテルの準備を始める。カクテルを造るミナトの傍でシャーロットたちがその左手の薬指に指輪を嵌める……。
後世の歴史学者がこの瞬間を目撃することができていたらこう呟いていただろう。
「伝説はここから始まったのか……」
と……。
「今日という日に……、乾杯!!」
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