第472話 冬祭りの贈り物
季節はまさに冬本番。
ルガリア王国の王都には今朝も雲一つない青空が広がっている。昨夜はなかなかに雪が降っていたため新たに降り積もった雪が朝日を反射して王都の街並みをより一層煌びやかに彩っていた。
「王都の冬って本当に晴れの日が多いよね」
一階にあるBarスペースで大きめにとってある窓から差し込む朝日を眺めながらミナトがそう呟く。
「気持ちがよくて大好きデス〜」
肩の上からそう言ってくるのは野球のボールくらいのサイズで揺れている虹色のスライム。エンシェントスライムのピエールだ。
本日の午後からついに王都の冬祭りが開幕する。歓楽街だけでなく住民に憩いの場である各所の公園やちょっとした広場でも様々な形の氷像や雪像が設置されてそれらをライトアップする魔道具や街を装飾する光る魔道具が王都全体に設置されていた。
氷像や雪像、そして各種の魔道具などは大部分がドワーフの職人達に依頼されるらしくミナトにグラスやバーテンダーの道具を作ってくれているアルカンとバルカンの常連さん兄弟も、
「専門ではないのじゃが……」
「たまには雪いじりもオツなものよ」
と零しつつも王都を盛り上げるこの祭りには協力しているようである。
設置会場によっては職人ではなく地域の有志によって作られた雪像コーナーや地元の子供達が作ったコーナーなどもあるらしい。その辺りは北海道の雪祭りや冬祭りと変わらないのだと思うミナトであった。
冬祭りの期間は一週間ほどらしくその間はいつものマルシェと呼ばれる市場だけでなく、多数の食べ歩きができる屋台が出店され、歓楽街も相当な賑わいを見せるということだ。
そんな街全体が冬祭りにうきうきとした雰囲気に包まれている状況で、ピエールを肩に乗せたミナトが何をしているかというと、開店準備となる店の掃除である。ピエールの分裂体が手伝ってくれるので店はあっという間に隅々までピカピカになる。
アルカンとバルカンのみならず多くの常連に祭りの期間に店を開けて欲しいと懇願されたミナト。
もちろん了承したのだが開催初日となる本日は所用があるということで開店は深夜と伝えてある。なので所用のために開店までにはちょっと早いが本日の営業に向けて掃除を完了したミナトであった。
そしてミナトにとってその所用こそが重要だった。昨日、ピエールが帰ってきて新居の完成を教えてくれたのである。
禁忌のダンジョン『
シャーロットからの伝言では本日このBarに集合し、みんなで冬祭りを楽しんでから新居のお披露目をしたいとのことであった。
『やっぱりここだよね……』
心の中でそう呟きつつミナトは【収納魔法】の
【収納魔法】
時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?
「ミナト!お待たせ!」
「うむ。マスター、しばらくぶりだ!」
「ん。久しぶり!会いたかった!」
「お会いしたかったです〜」
「ご無沙汰しておりますマスター」
「お会いしたかったぞ!」
先行して帰還していたピエールを除く六人がBarへと集まった。
ちなみにファーマーさんは自身の暮らしているダンジョンと王都を積極的に行き来して野菜の販売方法や魔法講座の打ち合わせを冒険者ギルドのカレンさんとしているらしい。
「みんなお帰りなさい。冬祭りの見物へ行く前にみんなに贈り物があるんだ」
ミナトの言葉にシャーロットたちが首を傾げる。このタイミングと決めていた。贈り物は祭り見物に行く前に渡すものだとガラス職人のアルカンから聞かされていたのである。
「はい!冬祭りの贈り物です!」
一人一人に美しい小箱を手渡すミナト。小箱を開けて感激したシャーロットたちの表情に笑顔の大輪が咲くまでそう多くの時間は必要ではなかった。
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