第461話 ダンジョンの最下層で出会った魔物

『麦わら帽子に白いシャツ、そしてオーバーオールを纏いクワを肩に担いでいるスケルトン?』


 心の中でそう呟いてみているがミナトの頭の中では大音量で警戒のアラームが鳴り響いていた。空耳でなければ目の前の魔物は間違いなく人の言葉を喋っていた。


 人の言葉を解する魔物は例外なく高位の魔物のである。この魔物がただのスケルトンであるはずがないのだ。


 ミナトがその背中にじっとりと冷や汗を流していると、


「その喋り方とその魔力……、ってあなたファーマー?ファーマーなの!?」


 唐突にシャーロットがそう声を上げた。どうやらシャーロットの知り合いらしい。


「シャーロット様?おお!ほんにシャーロット様でねだが!お懐がしゅうございあんす。二千年ぶりだべが?お元気そうで何よりだ」


 見た目がスケルトンなので表情がよく分からないのだが再開を喜んでいるらしい。


「あなたどうしてまだこの世界にいるの?あの時間違いなく消滅していたわよね?」


 美人のエルフが何だかとても物騒なことを言っている。かつての関係が敵なのか味方なのかよく分からないシャーロットの台詞にその傍で戸惑うミナト。


「それがにもよぐ分がんねのだ。あの時、ぁ確がに消滅し存在失った筈だ。んだども気がづいだらこの空間にいで……。どうもダンジョンさ取り込まれだようなのんだども……」


 そう返答するスケルトン。


「ダンジョンの不思議に巻き込まれたってことなのかしら……?そうだとしたらそれ以上考えても答えは出なそうもないわね。ということはここにある畑ってあなたが?」


「その通りだ。こごさはやだらえ土ど水があってなしてが野菜の種がこの奥で宝箱どしてドロップしあんす。が夢にまで見だ空間がこごさあった。そしてぁこの畑作り管理してぎだのだ」


「あなたのことは本当に申し訳なく思っていたのよ。そう……、夢を叶えることができたのね。本当によかったわ」


 スケルトンの話を聞いていたシャーロットがしみじみとそう呟きつつ笑みを浮かべる。どうやら悪い魔物ではないらしい。


『ロビンと同じようにかつて魔王に操られていた魔物なのかな?あれ……?でも世界の属性を司るドラゴンたちもフェンリルのオリヴィアもエンシェントスライムのピエールも首を失った闘神ヘル・オーディンになったロビンも最初は名前を持っていなかったけど……?何でこのスケルトンっぽい魔物は名前があるんだろう?』


 ミナトがそんなことを思っているとシャーロットがミナトとピエールへと振り返る。


「ミナト。ピエールちゃん。二人には紹介しないといけないわね。彼の名前はファーマー。二千年前にあった大戦の時、魔王がその魔力から直接生み出した存在で魔王軍の実質的なトップをやっていた魔物なの。一見するとスケルトンだけど種族はエルダーリッチ。もの凄い攻撃魔法の使い手だったのよ」


 どうやら魔王軍時代のロビンを上回る魔物らしい。そのことに驚きつつも、


「ファーマーだ。宜しくお願いしあんす」

「ミナトです」

「ピエールでス〜」


 とりあえず挨拶を交わすファーマーとミナトとピエール。


「シャーロットは二千年前にファーマーさんをデボラたちと同じように想起される永遠不滅の契約エターナル・コンタクトで魔王の支配から解き放ったってこと?」


 気になったことを尋ねるミナト。想起される永遠不滅の契約エターナル・コンタクトとは史上最悪の光魔法とか隷属魔法の最終形などと言われている強力な隷属魔法である。


「そうね。でもファーマーに関してはもっと特殊な状況だったわ。彼は魔王の魔力から生み出された存在……、言ってみれば魔王に最も近い存在だったの。だから想起される永遠不滅の契約エターナル・コンタクトだけでは足りなくてファーマーという名前を与えて魔王の支配から切り離したのよ。その後はロビンと同じように魔王軍を相手に戦うアンデッドの司祭として心強い味方になってくれたわ。昔話としても伝わっている筈よ」


「さっき消滅したとか夢を叶えたとかってことも尋ねていいかな?」


 ミナトのさらなる問いかけにシャーロットがファーマーを見ると彼はゆっくりと頷くのであった。

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