第460話 その名はシャルトリューズ

 シャルトリューズの黄色ジョーヌ緑色ヴェールが湧く泉を見つけて歓喜するミナト。


「ミナト?これもお酒なの?」


 シャーロットが聞いてくる。


「ああ、おれのいた世界にあるラ・グランド・シャルトリューズ修道院っていう修道院で作られているのと同じお酒だよ。修道院の名前からとってシャルトリューズって言うリキュールなんだ。黄色い方がジョーヌで緑の方がヴェールって呼ばれていた」


「カクテルに使うのデスカ?」


 興味のある様子でピエールもそう聞いてくる。


「ストレートでも飲める……、というかヨーロッパとかではそれが主流って聞くけど、おれのいた日本ではカクテルに使うことが多かったかな?」


「さっきマスターが言っていたもカクテルですカ?」


「このシャルトリューズを使った代表的なカクテルと言っていいんじゃないかな?みんなに飲んで欲しいけど、おれとしては代表的なレシピだけじゃなくてグリーン・アラスカってカクテルもお勧めかな?日本の有名なバーテンダーが教えてくれたレシピがとても気にいってるんだよね」


 とても嬉しそうに話すミナトの様子にシャーロットもピエールもそのカクテルが気になってしまうようで、


「ミナトが勧めるってことは本当に美味しいんでしょうね……。ちなみにベースはどんなお酒なの?」


 カクテル名を聞いてベースを尋ねてくる美人のエルフ。これはお酒……、というかカクテルを飲み慣れていない者にはなかなかできない質問であり、そんな質問をしてくれるシャーロットに嬉しくなるミナト。


「アラスカはシャルトリューズの黄色ジョーヌを使うジンベースのカクテルだね。基本的にはシェイクするカクテルだけど、おれがお勧めするグリーン・アラスカはちょっと違うんだ。そのあたりは実際に造ったときのお楽しみってことにしておこう」



「アラスカもグリーン・アラスカも興味深いわ」

「飲んでみたいでス!」


 シャーロットとピエールがBarに戻るのを待ちきれない様子でそう言ってくる。


 そんなことを話しつつ魔法が使えるようになったことを思い出し、ミナトはいそいそと虚空から空の小瓶を取り出した。


収納レポノが使えて本当に良かった……」


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


 そう呟きつつ二種類のシャルトリューズを小瓶に汲もうとして……、ハッと何かに気付いた様子でピタリと動きを止めるミナト。パートナーである美人のエルフへと顔を向けると、


「これって勝手に汲んで大丈夫かな?この修道院っぽいっていうかシャルトリューズがあったんだしもうここはおれの中では修道院ってことなんだけど……、誰かいたりして……?」


 そう問われて、


「うーん……。ここって、一応ダンジョンだから見つけたものは発見者の所有物で問題ないと思うけど……。広がっている野菜畑を見ると確かに誰かいそうではあるわね。畑を作ることができる程の高位な魔物でもいるのかしら……?でもダンジョンの主はあのコアで今は踏破されているはずだし……」


 腕組みをしながら考え込んでしまう美人のエルフ。そうやって考え込む姿も実に絵になる美しさだと思ってしまうミナトである。ちなみにピエールはふよふよと揺れている。


 ミナトたちがどうしたものかと思っていると、


「こったどごろにお客さんなんて!いやー、珍しいごどもあるものだね!」


 背後から唐突にそんな声をかけられた。周囲を警戒していなかったわけではない。それなのにミナトもシャーロットもピエールも一切その接近に気が付かなかった。一行が慌てて振り返ると、


『誰?』


 ミナトは思わずそう心の中で呟いてしまう。


 そこには麦わら帽子に白いシャツ、そしてオーバーオールを纏いクワを肩に担いでいる……、完全に農作業に特化した装備をしている骸骨が立っていたのだった。

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