第443話 ミナトは短剣を振るう

「はっ!」


 そんな言葉と共にミナトが短剣を振るうと血に染められたかのような真っ赤なスケルトンの頭部が粉微塵に吹っ飛ぶ。


 この短剣は鉄鉱石に微量のミスリルを加えた合金を打って造られた逸品。ミスリルが含まれた上質の鉄鉱石を使ってグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアで職人をしているアイリスに頼んで造ってもらった品であった。


 外套マントに姿を変えたピエールを纏い、シャーロットを庇う形でミナトが斬った……、というか頭部を粉砕して斃したスケルトンの数は二百を優に超えている。


 冒険者ギルドで受け取った禁忌のダンジョン『みどりの煉獄』の資料には第一階層のことまでしか書かれていなかった。ここからは未知の領域である。そんな第二階層は暗い森が広がる魔力の行使ができない空間。そのためシャーロットは魔法が使えず、ピエールも分裂体を出現させてのダンジョン蹂躙が不可能となっている。外套マントになっているピエールは酸弾を使えるはずなのだが、


『少し考エル時間をくださイ~』


 といった後、ピエールはずっと沈黙している。


 そしてそんなミナトたちの前に出現した魔物は地に染められたかのような毒々しい赤を湛えるスケルトン。ミナトの読んだラノベでは武器攻撃に強く炎や光の属性に弱いアンデッドで、その強さは作品によって異なるが主人公の側で活躍するといった場合を除いてはそれほど強い魔物という印象はなかったのだが……。


 ミナトの予想を裏切るようにこの階層に出現したスケルトンはその禍々し外見に勝るとも劣らない強さを兼ね備えていた。その習得した経緯は不明だがここのスケルトンは何かの剣術を使う。そしてその動きもかなり素早く武器攻撃への耐性も非常に高い。シャーロットの見立てではB級冒険者の人族や亜人の剣士ではたとえ魔法が使えても一対一でまず勝てないくらいに強いとのことである。魔法が使える条件下ならA級冒険者でかつ対人戦に特化したと言ってもよいくらい得意としているティーニュであれば固い水球ウォーター・ボールなどを駆使することで一対一なら引けを取ることはないが、この階層では確実に苦戦するということだった。


 そしてこの階層でスケルトンは十体以上の群れを成して襲ってくる。


 そんなスケルトンに対してミナトは振われる長剣を見事な足さばきで躱し、魔物との距離を短剣の間合いに入れて魔石のある頭部を斬る……、のではなく粉砕するという作業をいとも簡単に行っていた。それが冒頭の姿である。もともと魔法に特化した戦闘を基本にしているミナト。以前までのミナトであれば絶対に不可能な動きで淡々とスケルトンを斃し続ける。凄まじい剣の冴えであった。


 ちなみに頭部を狙う戦い方はシャーロットが教えてくれた。通常の戦闘ではスケルトンは炎属性の魔法か聖属性と呼ばれることもある特殊な光属性の魔法で斃すのが基本とされている。しかし今回のように魔法を使わずに斃す必要がある場合は頭部にある魔石を破壊することが必要になるとのことだ。なんでも全身を粉砕したとしても頭部の魔石が残っていれば時間の経過とともに復活してしまうらしい。


 そうして本日何回目かにエンカウントしたスケルトンの群れを殲滅したミナト。


「ふう……、おれってこんなことができたんだ……」


 思わずそんなことを呟いてしまうミナト。


「すごいわ!かつて存在した剣聖より強いんじゃない?」


 シャーロットが興奮気味にそう言ってくる。


「ロビンのお陰だね……」


 そう返すミナト。自身が驚くほどに強力な無双を実現しできるこの剣技は当然のごとく【保有スキル】である『暗黒騎士の主君』によるものだ。


【保有スキル】暗黒騎士の主君:

 煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンが進化した首を失った闘神ヘル・オーディンを自身の眷属として相応しい形で強化し従わせる。肉体的な変化はありませんが、剣を扱う技術を習得します。最強クラスの騎士ですが常に先陣で戦う首を失った闘神ヘル・オーディンが操るそれはまさしく剛の剣。護りの剣ではなく攻めの剣です。その威力をお楽しみください。

 あ、人族である場合は身体強化をお忘れなく。非常に苛烈な剣技のため自身の身体が保てない恐れがあります。


 この剣技が斬ったはずのスケルトンの頭部を砕き散らしたのである。このスキルを使うためには身体強化が必要になるがこの階層では身体強化魔法は使えない。だがミナトにはもう一つの【保有スキル】『白狼王の飼い主』があった。


【保有スキル】白狼王の飼い主:

 白狼を自身の眷属として相応しい形で強化し従わせる。

 身体強化魔法の性能を圧倒的に向上させる。上限はなし。強化の度合いは任意。

 強化しすぎると人族では肉体が瓦解する危険があるので注意。

 種族が人族であるときは気を付けましょう。


 この二つの組み合わせで実現したのが先ほどの護身用に誂えた短剣を用いた無双である。


「こんなことなら第一階層に戻ってナタリアの大剣を持ってきてもよかったんじゃない?」


 美人のエルフがそんなことを言ってくる。あの主人公のような人生超ハードモードは勘弁だが、大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた大剣を振るう姿にはちょっと憧れるが……、


「いや……、おれってまだ人族でしょ?スキルの注意書きにも人族ではその不可に注意って書いてあるし、あの大剣を振り回したらきっとおれの身体が瓦解すると思う……」


「それはちょっとイヤね……、でも人族を超えたのなら……」


「え?」


 後半がよく聞こえなかったミナト。だがシャーロットには『何でもないわ!』と返されるのみであった。


 そうしてさらにスケルトン軍団を殲滅させながら第三階層への階段を探して第二階層の探索を続けるミナト。すると、


『これならデキそうでス~!』


 突如、ミナトが纏っている外套ピエールからとても嬉しそうな念話が飛んでくるのであった。

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