第442話 第二階層に待つもの
ミナト、シャーロット、ピエールの三人は第二階層へと続く石造りの下り階段まで辿り着いた。
「ここまでが第一階層。ずっと草原が続く空間だったけどピエールが魔物を一掃してくれた以降はほとんど戦闘もなかった……」
そう呟くミナトだが声の調子には緊張感が感じられる。【保有スキル】である泰然自若は効果を発揮しているのだがそれでも不安な要素があることは間違いない。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
「ピエールちゃん、あなたの分裂体は第二階層で魔物に斃された訳ではないのね?」
シャーロットが確認するようにピエールに問いかける。
「ハイ。魔物ではありませン。第二階層に降りてすぐに消失を確認していまス」
ピエールの分裂体は魔物に斃されたわけではないらしい。分裂体というがもともと伝説の魔物とされるエンシェントスライムであり、ミナトの【眷属魔法】である
【眷属魔法】
極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。眷属化した存在を強化する。眷属を確認して自動発動。強化は一度のみ。実は強化の度合いが圧倒的なので種を超越した存在になる可能性が…。
そんな分裂体が何かの理由で消失したという。シャーロットもさすがに警戒しているらしい。
「とりあえず第二階層降へ降りないと何も始まらないわね。ミナト、念のためピエールちゃんを
『世界の理が狂うから本当はやりたくないけどね……』
言外にそんな念話による補足を付け加えつつシャーロットが言ってくる。
「ワカリマシタ〜」
少女の姿から不定形のへとその身体を変化させたピエールが幕状となってミナトの全身を覆い尽くす。その後には漆黒の
「シャーロット、先頭をお願いね」
ミナトもここはシャーロットに従う。未知の場所への探索で女性に先陣を切らせることに思うところがないわけではないがシャーロットの方が種族的に強いというのは間違いのない事実である。命の危険が伴うダンジョン攻略に騎士道精神など不要なのだ。
そうして一行は周囲を警戒しつつ階段を降りて第二階層に足を踏み入れた。
「暗い森……?」
視界に飛び込んできた光景に思わずそう呟くミナト。階段を降りたその先は鬱蒼とした森の中であった。周囲を警戒するミナト。その優秀な索敵範囲に魔物の気配は感じられない。
「とりあえずこの辺りに魔物はいないみたいだけど……?シャーロット?どうしたの?」
そう問いかけるミナトの視線の先では美しいエルフが首を傾げつつしきりに両手の拳を握っては開くを繰り返していた。
「ミナト!」
「はい!」
唐突に名前を呼ばれたがシャーロットの目は真剣だ。
「あなた今魔法は使える?なんでもいいから使ってみてくれないかしら?」
そう言われたのでミナトは【闇魔法】の
【闇魔法】
ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!
これまで様々な場面でお世話になってきた得意とする闇魔法の一つ。その漆黒の鎖は自由自在に発現させることができるはずなのだが……、
「あれ……?」
ミナトの手には何も発現していない。
「えっと……」
もう一度【闇魔法】の
「やっぱりそうなったわね。ミナト!気をつけて!ここにある樹々が魔力の行使を無効化している。つまりここは魔法が使えない空間ってことになっているわ」
「ということはピエールの分裂体は……」
「ワタシの分裂体は魔力で造ったもノ……、イワバ魂が入っていない
漆黒の
「この空間では魔法が使えない。ピエールの分裂体は魔法と判定され消失したってことか……」
『最後のファンタジーなゲームにもそんなダンジョンがあった気がする……、でも魔法が使えないとなると……』
ミナトは装備していた短剣を抜き構える。これまでミナトの戦闘は魔法の使用に特化していた。しかしここでは【闇魔法】は使えない。
「ロビンに出会えたことは幸運だった……」
呟く表情は笑顔である。魔法は使えなくてもスキルは使える。最近取得したある一つのスキルを思い出しミナトは笑みを浮かべるのであった。
【保有スキル】暗黒騎士の主君:
あ、人族である場合は身体強化をお忘れなく。非常に苛烈な剣技のため自身の身体が保てない恐れがあります。
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