第441話 ミナト一行はダンジョンに挑む

「分裂体を多数展開。侵攻を開始しまス。多数の魔物を確認しましタ。これよリ……、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス、討伐しまス……」


 ピエールの言葉とともに、大量の魔物がものすごい勢いでその姿をドロップアイテムへと変えてゆく。その様子は壮観というかもうどうしようもないくらいに圧倒的である。


「ミナトから王族の護衛任務でダンジョンに潜った時のピエールちゃんの活躍は聞いていたけど……、実際に目の当たりにすると本当に凄いわね……」


 さすがのシャーロットもその驚きを隠せていない。


「あはは……、結構強そうな魔物もいたけどね……」


 ミナトも乾いた笑いと共にそう返すのがやっとだ。


 ここはルガリア王国と冒険者ギルドがその危険性のために存在を秘匿し立ち入りを禁止とした禁忌のダンジョン『みどりの煉獄』。その第一階層、ダンジョンの入り口から入ってすぐの場所である。


 本来は分厚い鉄の扉と太い鎖、そしてルガリア王国の名が刻印された特別製の錠前によって固く封印されているということだった入り口は完全に開放されていた。


 侯爵家といっても次男でC級の冒険者でしかないザイオン=オーバスがどうやってこの封印を解いたのかは分からない。だがどうやらダンジョンは魔物が氾濫する直前だったようで多数の魔物が……、それはそれは多数の魔物が入り口付近に集まっていた。そしてそんな魔物をピエールの分裂体が鮮やかに一掃してくれたのが先ほどの光景である。


「もう入り口付近に魔物は……、ピエールが全部斃してくれたみたいだ。とりあえず今すぐに魔物はダンジョンから溢れ出ることはないのかな?」


 そう言ってシャーロットに意見を求めるミナト。


「うーん……。ダンジョンにおける魔物の氾濫ってかなり珍しい現象なのよ。その原因についても諸説あるけど本当のところは私にも分からない。単純に入口に集まってきた魔物がそのままダンジョンの外に出るのかも不明ね。魔方陣のようなものでダンジョン内の魔物が外に転送される可能性も否定できないわ。ここはやっぱり踏破を急いだほうがいいと思うわ」


 みんなのプレゼントの素材となるシルバーラグという魔物の『銀の尾羽』を探しに行った際、目当ての魔物がいるグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアの北にあるダンジョンで魔物の氾濫がおきていたことを思い出すミナト。


 冬という時期に肉をドロップするあまり強くない魔物が溢れてくるというのであの氾濫は冒険者にとって稼ぎ時だったらしいが現象としてはかなり珍しいことだと職人のグドーバルさんも言っていた。


『あのダンジョンは氾濫の最中はダンジョン内の魔物が強力になるタイプだったけど……』


 フォルムはダチョウだが体長が四メートルくらいある筋肉ムキムキで血管が脈打って蒸気まで吹き出している凶悪な脚をもつキラーオストリッチ。三本の脚に支えられた巨大な篝火かがりび状態で全身に炎を纏ってこちらに突っ込んでくるファイアドランカー。そんなぶっ飛んだ魔物との遭遇を思い出したりしたミナトは、


「そうだね。依頼通りここは確実にダンジョンの踏破を目指すことにしよう」


 改めて方針を固めるのだった。


 今回は踏破を急ぐため特に貴重なドロップ品以外の回収は行わないことに決めてある。そうしてダンジョンの奥へと移動を開始する一行。


「第二階層への階段を発見しましタ」


 すぐにピエールがそう告げてくれた。しかし、


「マスターに報告でス。第二階層で分裂体の消失を確認しましタ。ナニカがあるみたいでス」


 ピエールの分裂体は強い。そのことはダンジョン化した王家の墓に潜った際に十分過ぎるほど証明されている。そんな分裂体が消失したという事実にミナトは気を引き締めるのであった。

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