第439話 魔道具とその後のこと
会議室に集められた冒険者達がシャーロットの早業にぼう然とする中、彼女の手にあるには一つのネックレス。ミナトはそのネックレスに身に覚えがあった。
「あれは『
ミナトの言葉にシャーロットが頷いて肯定する。
かつてミナトたちがグランヴェスタ共和国の古都グレートピットを訪れた際、その街を代表する冒険者クランのリーダーがこのネックレスを持っていたことで街に大きな混乱を招く事態となったのは記憶に新しい。
シャーロットはこのネックレスはとてもタチの悪い光属性の魔法を模した魔道具と言っていた。
光属性というと聖なる魔法とか回復魔法を思い浮かべてしまうミナトであるが、どうもこの世界の光属性の魔法は精神に作用するタチの悪いものが多いらしい。
この魔道具は装着した者の心に作用し、装着者が心の奥底に持っている影のようなもの、誰にも言えないような劣等感、熱情、慕情、劣情、野望、といった感情を少しずつ増幅させる。清廉潔白と称されるような者ほどその行動が少しずつ歪んでいき、そしてその効果は周囲へと伝染する。組織の長がこれを装着するとその組織は少しずつその方向性を変え、大体の場合は最後に周囲へ甚大な被害を与えて崩壊する。長期的な戦略に立って敵対組織を弱体化させることを目的に生み出された酷い魔道具とされていた。
そんな『
「随分と心を蝕まれているみたい。この状態だともう何も聞き出すことができないかもしれないわ」
シャーロットがそう言ってくる。
「シャーロットさん。そのネックレスがグランヴェスタ共和国の古都グレートピットで報告された『
カレンさんが聞いてくる。どうやら冒険者ギルドはきちんと情報共有を行っているらしい。
「そうよ。ピエールちゃんがいてくれて助かったわ。ここまでじっくり見ないと分からない位の隠蔽魔法が施されているなんて……」
そう答えるシャーロット。ミナトも魔力の反応には敏感なはずだが今回は全く気付くことが出来なかった。
「これが報告されていた人心を狂わせる魔道具……」
「全く気付くことが出来ませんでした……」
そう呟いているのはウッドヴィル公爵家の先代当主であるモーリアンとこの国の宰相であるハウレット。
「この魔道具は偶然で身につけることができるようなものじゃない。誰かが意図的にこいつに与えたのよ。この魔道具は組織の破壊を目的にして造られた。その性質から考えてこいつの家である侯爵家か冒険者ギルド……、そのどちらかへの破壊工作が目的だったと考えられるわ。こいつが暴走して禁忌とされるダンジョンに潜ったのは想定外かもしれないわね」
そんなシャーロットの推測にカレンさん、モーリアン、ハウレットが頷く。
「現時点で冒険者ギルドは何の影響も受けていません。ここに倒れている冒険者の方が一人行動不能になっただけです」
カレンさんが答える。
「こやつの家であるオーバス家とて現時点の状況では冒険者をしている次男が乱心したということで切り捨てれば、醜聞ということではあるが侯爵家への影響などさしたるものではなかろうな」
モーリアンがそう言いハウレットの頷きがそれを肯定していた。
「ということは本来の……、もっと深刻な事態が発生する前にその魔道具を確保できたってことでいいのかな?」
「ミナト。魔物の氾濫を忘れているわよ?でもこの魔道具の入手方法とかは王城に任せることになるからあとは三百年前の記録通りのことが起こるかどうかってことになるのかしら?」
ミナトとシャーロットがそう話している間に、意識を失ったまま騎士達により拘束されたザイオンが会議室から運び出される。
「カレン殿、儂らは一旦こやつの身柄を王城へと移す。こやつがどのようにして魔道具を入手したかを王城でも調べることになるじゃろう。その魔道具は王城の魔道具師にも見せる必要はあるじゃろうが今はギルドでの保管をお願いする。氾濫に対応する騎士達の準備も急がせるので、王城との連絡は密に頼む」
「かしこまりました」
モーリアンの言葉に頭を下げるカレンさん。
『公爵家の先代当主がギルドの受付嬢をカレン殿って呼んでた……』
などと気になるところもあったがスルーすることにしたミナト。
『でもこれでザイオンって奴の出番は終わり?なんかイヤな予感がする……』
そんな心の中での呟きが念話で漏れたらしく、
『ミナト!それもあなたがいた世界のふらぐってやつじゃない?』
『あ……』
ミナトとシャーロットがそんな念話のやりとりをしている間に、先代公爵と宰相が王城へと向い、冒険者達が残された会議室に改めて緊張感が走る。
「ザイオン様があのような状態になってしまったので、『
カレンさんが言ってくる。
「『
会議室に集められた王都でも戦闘に関して腕利きとされている冒険者達が頷く。
「そしてミナトさん!」
「はい?」
カレンさんの声に反応するミナト。
「王城からの許可は取ってあります。ミナトさん、シャーロットさん、ピエールちゃんにはダンジョン『
他の冒険者達が騒つくが、これはミナトにとってはある程度は想定できていた展開である。ミナト、シャーロット、そしてピエールまでもが好戦的な笑みを浮かつつ頷くことで承諾の意思を示すのであった。
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