第420話 ミナトは打ち上げのため料理を作る
ここはルガリア王国の王都。先ほどまで王都を照らしていた夕日は西の山の端に消え、冬の王都は夜の賑わいに包まれ始める。
雪のため陸路での物流が滞ったとしても、王都は冒険者が毎日のように狩ってくる獣や魔物と秋からの貯えに加え、大河ナブールまで続く運河による水運で十分な量の物資を確保することができる。そのため各所で開かれるマルシェや歓楽街や繁華街は今日も喧噪に包まれるのであった。
そんな繁華街の端の路地に位置し、工房が連なる職人街、大店として店を構える商会が多く集まる商業地区、各種の研究所や教育施設が集中する学生街などから等しく近い立地にあるのがミナトのBarである。一階部分がBarとなっているこの建物にはミナトのこだわりで一階と二階にきちんとしたキッチンスペースがあるのだが、ミナトは一階のキッチン立っていた。
「さてと……、初めての戦闘訓練の打ち上げってことで来てもらったけど……、人数も多いしね……、そうだ!パスタにしよう!そうしよう!」
そう言って気合を入れるミナト。本日、Barはお休みだが、カウンターにはお客さんが座っている。A級冒険者のティーニュ、B級冒険者パーティである
無事終了した戦闘訓練だがその内容は苛烈を極めたと言ってよい。A級冒険者のティーニュは言うに及ばずだが、B級冒険者パーティである
怪我に関しては『治療は水属性が得意するところですが、光属性にも治療の魔法はあるのです』と答えてロビンが全員を回復させた。ただし、切り傷、打撲、骨折の治療のみで筋肉繊維や靭帯への治療は最小限にしてあるらしい。治癒魔法での治療はやり過ぎると訓練による肉体的な成長を阻んでしまうということだった。『筋トレをして治癒魔法をかけると筋肥大がおきないって感じ……?』と認識したミナトである。
そうして戦闘訓練を終了した一行は王都へと帰還し受付嬢のカレンさんにその旨を報告した。そうして打ち上げをしようということになったのだが、A級冒険者のティーニュと受付嬢のカレンさん、そしてロビンがミナトのBarで飲みたいと主張したのである。ティーニュとカレンさんはBarの常連さんだ。その勢いに押されたミナトが承諾し、
そんなこんなでミナトは本日作るパスタの材料を用意する。当然のごとくパスタ。グランヴェスタ共和国で買ってきたタマネギ、ピーマン、近くのマルシェで買ってきたベーコン、塩、胡椒、バター、そして要となるのトマトスース。この世界にトマトケチャップという商品は存在しないらしいがトマトソースはあちこちのマルシェで売っていた。味わいも濃度もそれぞれでミナトはケチャップに近いものを購入しておいた。王都の人々はどうもトマトソースが好きらしい。鶏肉のトマトソース煮込みなどは食堂の定番の一つとして売っているしミナトも好きなので今度作る予定である。
「イタリアンじゃない……、ナポリタンは日本料理なのだ……」
そんなことを呟きながらお湯が沸いた大きな鍋に塩を投入するミナト。すると漆黒の鎖がミナトの手から産み出され網目も美しいパスタを茹でるための十分なサイズ感を備えたテボの形へと変わってゆく。
『これの呼び方ってテボでいいんだよな……?ザルとは呼ばないよね……、ストレーナーって呼び名もあったような……。でもラーメン界ではテボと平ザルでどっちがいいか論争があったはずだから……、うん、テボってことで!』
そんな道具の名前を考えつつミナトは自身も入れて八人分のテボにパスタを入れて大きな鍋の縁に引っかける。今日は一人百五十グラムくらいだ。
「【闇魔法】って本当に便利~♪」
本来は拘束用の【闇魔法】である
『麺の湯で置きとかはしません~、ニンジンは入らないのです~、ナスもキノコもは入らなーい。ってゆーかナポリタンなら作り方も具材も何でもアリでいいよね……』
そんなよく分からない台詞を心の中で呟いていたりする。人数分の具材を斬り終わると二つのコンロに二つのフライパンを用意する。
二つのフライパンを火にかけそこにバターを投入。バターが溶けてきたらベーコン、タマネギ、ピーマンを投入、塩、胡椒を少々してから炒める。もう一方のフライパンは漆黒の鎖が対応中だ。もはや何でもありといった状況である。
『野菜の食感とかって拘る連中もいるけど、しっかり火を通した野菜も美味しいものなのだ……。すき焼きで最後に残った白菜の白い部分の
後半の意味はよく分からないが、ミナトは野菜にしっかり火を通す派らしい。そうしてパスタも茹で上がり始める。
「フライパン二つで四人分が限界かな……」
漆黒のテボを大鍋から取り出し、湯切りしたパスタをフライパンへと投入。具材と炒め合わせてからそこへ入れるのはトマトソース。そこへちょっと容赦のない量の追いバターをしてから、ナポリタンはケチャップ焼きソバであるという信念の下に炒め合わせたものを皿に盛りつければ……、
「ナポリタンの完成だ!」
そう宣言するミナト。
「マスター!配膳は任せるのである!」
絶妙なタイミングでロビンが来てくれる。
「ありがとう!」
ロビンに笑顔でそう返したミナトはさらに四人分のナポリタンへと取り掛かるのであった。
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