第392話 スーズのソーダ割り完成
「このキッシュ?だったかしら?これは美味しいわ!そして白ワインとの相性は抜群ね!それにこの煮込み!シンプルなのにとても奥深い味が素敵だわ!こちらは赤ワインの方が合うかしら?」
「ワインと料理の組み合わせは自由かな?魚料理に白ワイン、肉料理に赤ワインともいうけど美味しければ何でもおっけーさ!」
シャーロットの感想に応えるミナト。美人のエルフはことのほかベーコンとチーズのキッシュとソーセージとレンズマメの煮込みが気に入ったらしい。三つ目のキッシュを焼く必要性を感じる。
「うむ。こっちの煮込みも素晴らしい味だ。豆と腸詰を煮込んだだけの料理がこれほど美味いとは……。これは赤ワイン進んでしまう」
「ん。キッシュは美味!煮込みも素晴らしい!」
「キッシュは素晴らしいです~。チーズとベーコンの味わいが絶妙です~」
「私はこの腸詰の煮込みが好きですね。この味わい深さが実にいい!」
「どれも美味しいでス~」
「こ、これが料理というものか……」
黒髪の美女が驚愕しているがそれ以外のメンバーは極めて旺盛な食欲を見せている。テーブルを囲んでいるのはいずれも傾国の美女という表現がぴったりの美しさを湛えている女性たちの筈なのだが、美味しいものを前にした時の野性味あふれるこの食事風景はなかなか壮観だと思うミナト。
『ソーセージの煮込みを寸胴鍋一杯に作ったのは正解だった……』
そんなことを胸中に思いつつ、
「煮込みはたくさんあるから一杯食べて!キッシュはどう?もっと焼こ……」
「頂くわ!」
「無論!」
「ほしい!」
「頂きます~」
「是非!」
「ワタシも~」
「お願いする!」
ミナトの言葉に被せる勢いで、シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンがそう返してきた。ちょっと視線に込められた力が怖い。ミナトはほんの少し引き攣る笑顔を浮かべて慌ててキッチンへと向かうのであった。
そして楽しい食事の後は……、
「ではカクテルを造ります!」
本日休業のBarスペースへと移動したミナトとシャーロットたち。カウンターの内側に立つミナトは笑顔である。
ちなみにキッシュはさらに四皿を追加することになった。ちょっと寝かせる時間が短いかもしれない自家製のパイ生地と卵を多めに用意しておいた自分を褒めたいミナトである。ベーコンとチーズのキッシュが二皿、さらにそこにほうれん草っぽい野菜を追加したキッシュが二皿。結局、料理の大部分は美女たちの胃袋へと消えていった。残ったのは明日のサラダに使えるレンズ豆そのものの形状をしている豆のみ。翌朝の冷えた豆、刻んだタマネギ、酢と油とレモン果汁に塩と胡椒を入れた乳化させたヴィネグレットソース、そこにパセリを散らしたサラダはとても美味しく、この豆が残るのはとても嬉しいことなのだ。
とはいえ今は食後酒である。用意するのは王都近郊にあるロビンと出会ったダンジョンの最下層で入手したスーズ。ガラスの瓶に入れて持ってきた。そしてシャーロットに作ってもらった炭酸水。そしてロングカクテル用のタンブラーを人数分。
「シャーロット、お願いできる?」
「任せて!」
ミナトの言葉に呼応してシャーロットの指先が青く輝く。
カラン、カラン……。
ちょうどいい大きさのかち割氷が二個ずつタンブラーに出現する。次にミナトはバースプーンでタンブラーの氷を回す。その所作は相変わらずスムーズで動きに無駄がない。そしてタンブラーの水を切ったミナトが次に手にするのはジガーとも呼ばれるメジャーカップ。タンブラーにスーズを三十mL。そこに炭酸水を静かに注いで軽くステア。これを人数分……。薄くとも鮮やかな黄色が映えるカクテルが出来上がる。
「スーズのソーダ割りです。どうぞ……」
会心の笑顔と共にミナトは美女たちにグラスを差し出すのであった。
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