第390話 最奥部にあるのはお酒と……
ダンジョンの最奥部に異動したミナトたちの眼前に現れたのは泉というよりはヨーロッパなどで見られる水飲み場というか水汲み場というか……。洞窟のようなこのダンジョンにあって人の手によるものであることを思わせるなかなかにリアルな獅子のような彫刻の口の部分から鮮やかな黄色の液体が流れ出ている。ちょっと色合いが微妙なのと黄色の液体がどこに流れていくのかといった疑問はあるが、これがロビンの言っていた酒の湧く泉らしい。
目を輝かせて黄色い液体を観察するミナトに比べてシャーロットたちは戸惑い気味だ。
「ミナト?それがお酒……?とても鮮やかな黄色なのね……。カンパリも鮮やかな赤だったけど小瓶に入っていたから……。このリアルな彫刻の口から黄色い液体が流れ出す光景は……、ちょっとね……」
シャーロットはそう言ってくるが、ミナトの頭には既に一つのお酒の銘柄が浮かんでいる。
「以前の吾輩に味覚が無かったのですが毒物でないことだけは確認しております」
そうロビンが言ってくれる。ミナトはその液体の味を確かめようとして指先に黄色い液体を付けて味見をする。
「やっぱりこれはおれが前の世界で飲んでいたスーズだ……。こんな所で出会えるなんて本当に運がいい……」
笑顔で思わずそう呟く。
スーズ。それはフランス生まれの黄色いハーブリキュール。ピカソやダリといった文化人が愛飲したリキュールとしても有名で、ゲンチアナというリンドウの親戚のような植物が使用されている。このゲンチアナに由来する独特のほろ苦さと甘みのコンビネーション、清涼感のある深い味わいが特徴のリキュールだ。日本では特に有名という訳ではないかもしれないが、このお酒が置いていないBarはおそらく存在しないと言えるくらいバーテンダーにとっては必須のリキュールである。
『そしてこれはとても飲みやすい。昔、パリでピカソが飲んでいた頃のスーズを味見させてもらった時は喉に絡むきついリキュールだったけどこれは現代風でよかった……』
胸中でそんな感想を述べていると、
「ミナト?美味しいお酒だった?」
そう言いつつこちらを覗き込んでくるのは美人のエルフ。背後に控える絶世の美女たちも興味津々の様子である。
「ああ。これはおれのいた世界ではスーズって呼ばれているお酒と同じだと思う。少し香りが独特だけどスッキリ甘くて美味しいお酒なんだ。炭酸水で割った
「スーズ・ソーダ?カンパリ・ソーダと似ているカクテルかしら?」
そう言ってくるのはシャーロット。
「作り方は同じって言えるかな?使うお酒がカンパリからスーズに変わるんだ。カンパリ・ソーダはあのほろ苦さが味の特徴だけど、スーズ・ソーダはもっと甘くなるよ。香りに少し特徴があるすっきり甘くて飲みやすいロングのカクテルって感じかな?」
そんなミナトの返答に、
「うむ。カンパリ・ソーダは美味いカクテルだが、また異なる味わいになるのだな?」
「ん。甘いカクテルも大好き!」
「
「甘いカクテルも非常に興味深いです!」
「楽しみでス~」
「わ、吾輩も頂くことは可能だろうか!?」
デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンが言ってくる。
「そうだね……。今夜はロビンの歓迎会をしよう!フランス料理とワインを楽しんで食後にスーズ・ソーダでどうかな?」
「そうしましょう!」
真っ先にシャーロットが賛成する。美女たちからも歓声が上がった。その様子にどんな料理を作るべきか考えるミナト。
「さて……、それじゃ、帰るとしますか……」
ミナトがそう言うと、
「待つのだ。この最奥部ではもう一つ採れるものがあるのだ。こちらである」
ロビンがそう言ってスーズが湧く泉から少し離れた所へとミナト案内する。
「この感じって
驚いた表情をする美人のエルフ。すると、
「確認します~、え~い!」
そのおっとりとした口調からは想像ができない程の速度で鋼鉄製の鉄塊……、ではない大剣でナタリアがその壁面を斬りつけた。同時に爆音が轟き、壁が粉砕された。その先にあるものとは……、
「あらあら~?これは間違いなく
その内容を鉱石に詳しいナタリアが肯定する。
「
シャーロットの言葉ミナトはハッとする。美女たちには内緒でその宝石を手に入れることを心に決めるミナトであった。
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