第379話 ダンジョン踏破を目指すことにする

 残された金属製のゴーレムは漆黒の鎖とあまりにも大きすぎる大剣によって全て駆逐された。


『ワタシの出番がありませんでしタ~』


 ミナトが纏っている外套ピエールからそんな念話が聞こえてくる。


「ピエール?」


『ワタシも魔王様のお役に立ちたいでス~、戦いたいでス~』


 外套マントの姿のままふよふよと揺れつつそんなことを言ってきた。


「ピエールが戦闘狂に……。穏やかな魔物だったんじゃ……」


 そう呟いてしまうミナト。


「ピエールちゃん!大丈夫!奥にあるあの扉を見て!あれはきっと迷宮主の部屋よ。次の戦闘はピエールちゃんに任せるわ!」


 ビシッと奥の扉に向かって指を指す美人のエルフ。


『嬉しいでス~』


 シャーロットの言葉にピエールからの嬉しそうな感情が込められた念話が伝わってきた。


「シャーロット?やっぱり踏破はするの?」


 ミナトがそう問いかける。ダンジョンによっては主と呼ばれる魔物がいてそれを斃すと一定期間ダンジョンから魔物と宝箱が消滅する。人々はそれをと呼び冒険者にとっては富と名声を得るチャンスであり、有名ダンジョンの踏破は高位の冒険者資格を得ることについて極めて有利に働くとされていた。


「少量でもミスリルが採れそうだったじゃない?。そしてあれが主の部屋だとしたらこのダンジョンは第五階層までということになるわ。こんな浅いダンジョンで少量とはいえスリルが採れるってことになるとこのダンジョンはルガリア王国直轄として管理されると思うの。もっと詳細な調査が入ると思うから一旦は踏破状態にしてその復活までの時間を計った方がいいわ。それに踏破が簡単かつその状態の時間が長いのであれば、意図的に踏破して安全に調査や採掘ができるでしょ?主がどんな魔物かも確認しておいた方が後々の対応が楽になると思うの」


「確かに……、それが王国にとってもいいことなんだろうね」


「王都は住みやすくて素敵な街よ。私だけじゃなくみんな王都での暮らしを気に入っている……。まおうじ……、じゃなくて新しい家は大森林の最深部に造るけど、私たちの活動の拠点は王都であることは変わらない。だからこのダンジョンが見つかったことも含めてこれからも発展をしてほしいって思う」


「ええ~。王都は食事も美味しいですし、人々の関係性も穏やかです~。ですから生活していて楽しいですわ~」


『ワタシも食べ物がおいしい王都が好きでス~』


 シャーロットの口から何かよくない単語が聞こえたような気もしたが、ナタリアとピエールも王都の素晴らしさ……、特に食べ物の良さを伝えてくる。確かに王都は様々な食材が集まるし、大森林で採れる魔物の肉はとても美味しい。そして人々が楽しく暮らしている。王都が住みよい街であることはミナトも納得する事実であった。


「というわけで、ダンジョンの主を斃して調査を終わらせましょう!」


 シャーロットに先導されて扉の前まで辿り着く。何かの金属一枚で造られたかのような武骨な造りの扉である。特に意匠のようなものは施されていない。


「ピエールちゃん。お願いできる?」


『この外套すがたのままで大丈夫でス~。マスターをおまもりしながらダンジョンの主を斃しまス~』


「え?」


「分かったわ!じゃ、ミナト、ピエールちゃん。よろしくね?」


 ミナトの疑問の声はシャーロットには届かなかったようだ。


『マスター。ナンの問題もありませン~。頑張りましょ~』


 確かにミナトとピエールを相手にして勝てる魔物など存在しているかどうかが疑わしいレベルである。ただ外套マント状態のピエールがどのように攻撃するのかを確かめたことはない。『王家の墓への祈り』にピエールが同行した時は分身体やスライムの姿になったピエール本人が攻撃したし、先ほどの金属製のゴーレムとの戦闘でも外套マント状態のピエールが攻撃をすることはなかった。


 どんな攻撃ができるのかについてだけ少し不安を感じながら外套ピエールを纏ったミナトを先頭に扉を開けてその先へと進み出る。そこで待ち受けていたのは……、


「ミナト、ちょっとだけ気を付けてあの魔物は弱くはない!」


「あらあら~。あれは人族や亜人では斃せないかもしれません~」


 シャーロットとナタリアがそう言って注意を促す。ミナトの視線の先には、


首無し騎士デュラハン!?」


 漆黒の馬に跨り、背中に禍々しい大剣を背負った首から上が無い騎士が佇んでいるのであった。

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