第348話 掌の上での謀略

「ディレイン!一体これはどういうことなのだ!?」


 そう声を荒げてA級冒険者パーティ『白銀の鈴風』のリーダーであるディレインへと詰め寄る黒鉄騎士団の騎士団長。『白銀の鈴風』のメンバーがその様子を無表情で見守る。黒鉄騎士団の団員は周囲に散って魔物……、このダンジョンにいる筈だったオーガの襲撃に備えている。実際のところ夥しい数のピエールの分裂体に取り囲まれており、オーガの遥か上の次元で絶体絶命であることは秘密である。


「どうこと、と仰られても……」


 そう言って肩を竦めてみせるディレイン。


「あの合同調査でお前がと判断したではないか!?王都の冒険者ではこのダンジョンを進むことは困難だと!仮にウッドヴィル家が今回の護衛にティーニュを送り込んだとしても対人戦に特化したティーニュではオーガの群れには分が悪いといったのもお前ではないか!ぜ、全員が無傷で第五層に到達したのだぞ?」


 騎士団長は喚くように言い募る騎士団長。


「その筈なんですが……、こうみえて私も困惑しているんですよ?」


 再度肩を竦めてみせるディレイン。


「まさか今回の件から降りるなどと言うわけではないだろうな?」


 右手を腰にある長剣の柄へと伸ばす騎士団長。


「いえいえ……、依頼者から第一王女を連れて帰るようにときつく言われていますし、十分な報酬も貰ってしまいましたからね……。最後までお付き合いする所存ですよ?それにご存じかと思いますがこの身体は作り物デコイです。あなたが攻撃しても意味はありません」


「物陰からコソコソと……、これだから作り物デコイ使いは気に食わん……。で、それでどうするのだ?いくら作り物デコイで痛みを感じないといってもそれでティーニュに勝てるのか?」


「ふふ……。どんな時でも策は複数用意しておくものです。今日の夕食はよく眠ることができるように工夫されているらしいですよ?」


 ニヤリと笑いつつディレインがそう答える。


「C級の運搬役はその策に嵌るかもしれん。だがA級やB級の冒険者が信用できていない者の作った料理を口にするのか?」


「工夫といったではありませんか?このような事態のため依頼主からを借り受けています……。たとえA級冒険者のティーニュであっても抗えない程の強力な魔道具をね……。だから事前にお配りした魔道具を手放してはいけませんよ?あなた達の行動にも支障が出ますから」


「分かった……。そのあたりと当初の計画通りティーニュについてはお前たちに任せる。我らは王女を確保し、黒鳥こくちょうと共に残った王都の冒険者を始末する」


「いいでしょう。ティーニュと第一王女……、ああ……、今夜が楽しみだ……」


「変態め……。第一王女は壊すなよ?それが我が主とお前の依頼主との契約だ!」


 ピエールの分裂体がみっちみちに取り囲んでいることなど知る由もない二人の会話がそこで途切れる。ピエールの分身体は音を届けることはできないがどんな話をしていたのかを伝えることはできた。


『……という話をしていまス~』


『びっくりするくらいの悪者じゃんか……。あの女性近衛騎士も敵……、いや何かをネタに無理やり従わされているパターンもある。決めつけるのはヤメテおこう。このまま分裂体さんに斃してもらった方が楽なんだけど、それだと鉄の意志アイアン・ウィルのメンバーとかが騒いで儀式が失敗ってことになるかもしれないんだよね……。騎士団と黒鳥こくちょうの連中は襲ってきたらそれが現行犯、あとは話に出てきた行動に影響を与える魔道具を確保すれば……、騎士団の主とか白銀の鈴風の依頼主に繋がるくらいの証拠になるかな……』


 とりあえず大体のプランは決まった。アースドラゴンに造ってもらった精神耐性と状態異常無効が付与された防御用の魔道具を首から下げている今のミナトにその手の魔道具は無力である。


『それにしても白銀の鈴風のメンバーが作り物デコイとは……。完成度が高いのかな……、全然気づかなかった』


『ワタシもでス。何か特殊な方法を使っているのかもしれませン』


 ふよんとした感触とともに外套ピエールからもそんな念話が届く。


『ま、それはいいや。いざとなったら人形を破壊して自分たちは別のところにいましたってシラを切るつもりかもしれないけど……、そんなに上手くいくと思うなよ……』


 二人の女性近衛騎士がスープを作る様子を眺めながら好戦的な笑みを浮かべるミナトであった。

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