第347話 全ては掌の上
「お、王都で活動する冒険者の諸君!す、素晴らしい!これは……、素晴らしいぞ!無傷で第五階層に到達する素晴らしい成果だ!」
精一杯胸を張り、声を張り上げる黒づくめの鎧を纏った巨漢。黒鉄騎士団の団長である。威厳を見せつけたいと思っているのか、それとも虚勢を張っているのかはよく分からない。今となってはあのクドイ装飾で意匠を凝らした黒光りする悪趣味な鎧が滑稽に見えてくるのがちょっと面白いと感じるミナトである。
ここはダンジョン化している『王家の墓』の第五階層、本日の目的地である祭壇の手前にある野営スペースだ。ダンジョン内では時間の経過を知ることが難しいが今回は王女と黒鉄騎士団の団長に魔道具である携帯型の時計が渡されており、正確に時刻を知ることができた。
結局、ミナトと
主と呼ばれる魔物がいるダンジョンでそれを斃すと一定期間ダンジョンから魔物と宝箱が消滅することを踏破と呼ぶ。ミナトはピエールにお願いしてダンジョンを極めて安全な空間とし、踏破直前の状況にしてしまった。というか各階層の隅々にまでピエールの分裂体が行き渡っているこのダンジョン内の全ては既にミナトの
「魔物に一匹も遭遇しませんでしたね……。大量のオーガがいて危険とのことでしたが……」
そう呟くのは第一王女様であるマリアンヌ。その呟きが耳に届いたのか黒鉄騎士団の団長が表情を強張らせ、A級冒険者パーティ『白銀の鈴風』でリーダーを務めているディレインが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「お姉さま!これほど魔物が少ないのであれば無事に儀式を行うことができそうですわ!」
嬉しそうに第二王女であるアナベルが姉のマリアンヌへと抱き着いた。そんなアナベルの頭をマリアンヌが優しくなでる。非常にほっこりしたよい光景なのだが、それとは対照的に黒鉄騎士団と『白銀の鈴風』の連中は苦々しげな表情を浮かべていた。
「し、しかしこれほどまでに魔物に遭遇しないというのはむしろ何か異常事態がダンジョン内に起こっているともかぎらん!こ、これより我ら黒鉄騎士団と『白銀の鈴風』は周囲の探索を行う!王都の冒険者諸君と『
唐突にそう言い放つと騎士達とA級冒険者パーティは移動を始める。すると、
「今回の契約では食事は依頼者が提供するという契約だったかと思いますので我らが料理を作ります」
そう言ってきたのは王女を護衛する二人の女性近衛騎士。運搬役の冒険者が手伝いを申し出た。どうやらスープと持ち込んだ黒パンというメニューになるらしい。今回の依頼ではダンジョン内で時間の過ごし方に護衛対象を守り続けるということ以外に制約はない。ダンジョン内ではテントの必要もないので食事を近衛騎士が作ってくれるということであれば残された冒険者は護衛対象の周囲を見張るのみである。
『確かにそんな契約だった気がするけど近衛騎士って料理ができるの?』などとミナトが思っていると、第一王女のマリアンヌが妹のアナベルを連れてやってきた。この場に王女がミナトへ話しかけるという行動に驚愕の表情を浮かべる者はいない。ティーニュはウッドヴィル家からの依頼で彼女の護衛を兼ねて一緒にミナトのBarを訪れているし、『
「あの二人は私達の侍女でもあるのです。今回は私達の護衛と身の回りの世話、そして皆さまの今夜のお食事を用意するのが彼女達の仕事ですね」
明るく朗らかにそう話すマリアンヌに納得してみせるミナトだが、この件は少し引っかかっていた。
冒険者の活動は基本的に全てが自己責任であり、特にダンジョン内であればそれは尚更ということになる。冒険者が活動中に何を食べるかはそれこそ命にかかわる重大事項だ。それをよく知らない他人に任せるという今回の契約内容にミナトは疑問を抱かずにはいられない。
ティーニュもそう思っているのかじっと二人の近衛騎士を凝視している。
『毒味はピエールの分裂体にお願いするとして……』
ふよん。
任せろと言わんばかりに
『あっちに行った連中は……?』
第一王女と第二王女を相手に他愛無い会話を楽しみながらもミナトは黒鉄騎士団とA級冒険者パーティである『白銀の鈴風』が移動していった方向へと意識を向けるのだった。
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