第266話 昼食で気分の転換を!

 古都グレートピットの有名なクランである『大穴のカラス』に所属するカトリナと呼ばれたA級冒険者は躊躇することなく長髪の弓使いへと支配ドミネイションの魔法を行使した。


 光魔法の一つである支配ドミネイション。この世界の光魔法は攻撃魔法の他に精神に影響する魔法が多いことが知られている。シャーロットが支配ドミネイションの魔法について、


支配ドミネイションはね。かける術者の精神にも影響を与えるの。誰かを支配する魔法は邪法と呼ばれる部類の魔法で、こういった魔法は使う側の精神を徐々に蝕んである種の狂気に駆られ、その人格を破綻させる。どう壊れるかは本人の資質に影響されるらしいけどね。だから私は使わない。躊躇なく支配ドミネイションを使っているのなら相当にヤバい奴だと思うわ」

 そう説明をしていたことをミナトは思い出す。


「躊躇なく支配ドミネイションを使う連中か……」


 結局、カトレアは何も聞きだすことができなかったようで動けない冒険者達が神殿へと運ばれてゆく中、そんなことを呟くミナト。絶対霊体化インビジブルレイスによる隠蔽は続行中である。


「ミナト、明後日の探索はどうするの?」


 シャーロットがそう聞いてくる。


「この世の悪を退治する、みたいな気概は持ち合わせているとは言えないけど、乗り掛かった舟だしね……」


「尾行でもする?」


「うーん……。このまま尾行もできるけどこんな街中で本性をさらけ出すような連中ならグランヴェスタ共和国唯一のA級冒険者パーティなんて呼ばれ方はしていない筈だからね。今日はこのまま引き下がってレイドの時にどうなるかを見てみようか……」


「レイドの時に何か起こるかしら?」


「おれの知っているテンプレ的展開ならあの連中きっと第五層で何かする筈さ……。おれ達なら何が起こっても対処できる。もし他の冒険者に被害が出るようなら……、ね?」


 シャーロットにそう応えて少しだけ黒い笑みを浮かべるミナト。それを見た美人のエルフも黒い笑みを浮かべるのだった。


 絶対霊体化インビジブルレイスを展開したままこの場を離れた二人は人気のない通りでそれを解除すると明後日に行われるレイドの準備のため冒険者ギルドの資料室へと向かうことにした。この街のことを知りたかったし、『地のダンジョン』についてもシャーロットたちが深層までの道のりについては知ってはいるがここの住人たちの認識に関して把握しておきたかったのである。


 だがその前に……、時刻が正午を少し過ぎたところで、気分転換をしたかったということもあり昼食をとることにする。デボラ、ミオ、オリヴィアの三人にも声をかける。宿で寛いでいた三人も同行するとのことで【転移魔法】の転移テレポを連発するミナトであった。


「ここが宿で聞いた古都グレートピットおススメの食堂か……」


 食堂を前にそう呟くミナト。看板には堂々との文字が躍っている。


「ピザ屋さん……?やっぱりヒロシって転生者の影響かな?」


 ミナトの呟きに、


「ミナト?ピザって知っている?」


 そうシャーロットが聞いてくる。


「ああ。小麦粉を使った料理で、おれのいた世界の……、本場はイタリアっていわれるけど……、たぶんヒロシって人の嗜好を考えるとアメリカの影響を受けてるかな……?」


 そんなことを返すミナト。


「うむ?イタリアとな?パスタのようなものか?」


「ん!パスタは大好き!」


 デボラとミオが反応し、オリヴィアは初めて聞いたピザという単語に首を傾げている。


「小麦粉を使うところはパスタと同じと言えないこともないけど、形が随分と違うんだよね……」


 異世界の料理が元になっているということで興味を持った絶世の美女たちを引き連れ食堂へと入るミナト。集まる男達の視線は気にしない。


「いらっしゃいませ!当店のおススメは何と言ってもペパロニのピザです!!三百年前からある伝統のピザですよ!」


 満面の笑みで女性従業員さんからおススメされたのはアメリカを代表するようなトッピングのピザであった。


『きっとモッツァレラチーズとバジルが手に入らなくて、現地で入手できたチーズと腸詰を使ったんだ……』


 ふとそんなことを考えてしまうミナト。


 ヒロシとは三百年前に活躍しグランヴェスタ共和国の礎を築いた偉人の一人とされているが、ほぼ間違いなく日本からの転生者だ。それもミナトとほぼ同じ年代から転移したと思われる。三百年前には今ほど流通がよくなかったらしくヒロシは地球の料理を再現するのに苦労したらしい。


 午前中は嫌な出来事に遭遇したミナトであるが美味しそうなペパロニのピザを前にして気分を一新、必死に地球の料理を再現しようとしたヒロシに敬意を表するのであった。

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