第249話 収納魔法で攻撃を!

 お姫様抱っこと絶対霊体化インビジブルレイス状態を継続中のミナト。そんな彼が見上げているのはとある商会の本部となっている二階建ての建物。裏手にはたくさんの倉庫があるようでその敷地は広かった。本日は休業中なのか入り口の扉は閉ざされている。


「ミーム商会ね……。アイリスさんの親父さん……、ツェーザルさんが言っていた商会だよな?あのゴウバルとかってドワーフと懇意にしている商会だっけ……?確か今は……」


「ん!オレオンとかいう奴が仕切っている!」


 ミナトの言葉を腕の中で大人しくしているミオが引き継ぐ。


「隠蔽状態は継続中だから追跡続行と行きますか……、二階あたりから誰かの気配を感じるんだよね……」


 建物の裏手に回ったミナトは周囲に人の気配がないことを確認して裏口を開け建物へと侵入する。


「ん。マスター……、降ろしてくれても……?」


「触れていないと絶対霊体化インビジブルレイスが解除されちゃうからもうちょっとこのままかな?」


 そう答えたミナトはお姫様抱っこ状態のままでならず者の行方を捜して建物内を移動する。


「ん。ちょっと恥ずかしい……」


 小声で何やらミオが言っているがとりあえずは気にしない。階段を見つけて二階へと駆け上がる。


「従業員が全然いないな……、……おっと!」


 大きな扉の部屋から誰かが言い争う声が聞こえてきた。部屋の中には複数の気配を感じるが声を張り上げているのは二人。


「もう一度言ってみろ!!失敗!?人形が消えた!?何をバカなことを!!」


「何度でも言ってやる!どうせ俺にはこれしかできないんだ!!あの男も人形も消えちまったんだよ!街を見てみろ!何も起こっていないだろうが!」


 そんな言い争いが聞こえてくる。ミナトは片方の声に聞き覚えがある。


「怒りで口汚くなっているけど、あの声はゴウバルと一緒にいたオレオンだ……。ここまで辿れるとは思っていなかったけど、何かヘマでもやらかしたのかな……?」


 ミナトたちを襲った一件の失敗によりオレオンが裏の仲介者たちに警戒され協力を取り付けることができなくなったことをミナトは知る由もない。だが会話の内容からこのオレオンというものが少なくとも人形爆弾の一件に深く関わっていることは間違いないと確信するミナト。


「正式な手順を踏んで告発するのは難しそうだ……、そしてあんなことをする連中を見逃すほどおれは人間ができてはいない……」


 そんなことを呟きながらミナトは近くの窓を開けると身体強化魔法を使いつつそこから屋上へと移動する。ミオを下ろして絶対霊体化インビジブルレイスを解除した。


「ん。やっと着地!」


 そんなことを言いながら伸びっと背筋を伸ばすミオ。その様子はとても可愛らしい。そんなミオに笑顔を見せつつミナトは収納レポノから堕ちる者デッドリードライブで意識を刈り取った男を取り出す。


「ミオ!前にシャーロットにも同じようなお願いをしたのだけど、こいつに結界を纏わせてどんな衝撃を受けても辛うじて死なない程度の状態ってやつにできる?」


「ん!もちろん可能!」


 ミナトの問いにピースサインと共に可愛く胸を張るミオ。


収納レポノでならず者を打ち出した話はシャーロット様から聞いている。シャーロット様は風の結界を使ったみたいだけど、ボクなら水の結界!」


「お願いしても?」


「ん。任せて!」


 ミナトの言葉に頷いたミオが意識を刈り取られた男……、人形爆弾の製作者に手をかざす。深い青を湛えた魔力が奔流となって男の周囲に纏わりつく。


「ん!完成!これでどんな衝撃でも死なない。そしてこれがぶつかったとき大量の水が顕現する。この建物を水没させることができるくらい」


「さすがミオ!」


「ん。褒めて?」


 そう言って可愛らしい胸を張ってポーズを決める。


「よしよし……」


 頭を撫でられて満足気な笑顔を浮かべるミオ。


「よーし!これを……」


 ミナトは結界で覆われた男を収納レポノで亜空間に収納し、その索敵能力にものを言わせてオレオン達がいる部屋の真上まで屋上を移動する。ミナトはその右手を真下へ向けると呟いた。


冥獄炎呪ヘルファイア……」


【闇魔法】冥獄炎呪ヘルファイア

 全てを燃やし尽くす地獄の業火を呼び出します。着火と消火は発動者のみ可。火力の調節は自由自在。ホットカクテル作りやバゲットの温め直しなど多岐にわたって利用できます。素敵なアイリッシュコーヒーがお客様を待っている!?


 冥獄炎呪ヘルファイアの威力とミナトの魔力制御は伊達ではない。ミナトの右手から生み出された漆黒の炎が屋根を燃やしちょうど人が一人通れるくらいの空間を連中が未だに口汚く言い争っている部屋までつなげる。連中が動揺する気配を感じるミナトだが躊躇することなど全くない。


「射出……」


 ミナトの言葉と同時に亜空間から結界に覆われた男が部屋の中へと凄まじい勢いで打ち込まれるのであった。

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