第248話 追う者と追われる者

 秋晴れの中、大いに賑わう首都ヴェスタニア。時刻は正午まであと少しといったところだろうか……。


 ミナトはミオをお姫様抱っこした状態で身体強化魔法にものを言わせて屋根伝いに逃亡者を追跡する。【闇魔法】の絶対霊体化インビジブルレイスは絶賛発動中であり、その姿を感知できるものはこの世界に存在しない。そしてフェンリルであるオリヴィアをテイムした際に会得した【保有スキル】白狼王の飼い主によりミナトの身体強化魔法は人族の限界を超えた速度を実現する。


「あいつだな……」


「ん。逃がさない」


 路地裏を走るその背中をしっかりと視界に捉える二人。絶対霊体化インビジブルレイスの効果はミナトが解除する場合を除いて魔法攻撃を受けるまで継続する。絶対に悟られない自信のあるミナトは喘ぎながらもどこかを目指し必死の形相で路地裏を走っている男と並走した。


「こいつ……、森でおれを襲ってきた冒険者の一人……」


「ん?シャーロット様から聞いた。収納レポノで射出した冒険者?」


「いや、その片割れでその冒険者の砲弾を受けた方だな……、あれ?ミオ、こいつの首にある……、首輪かな?なんかイヤな感じが……」


「ん!この感じは光属性の隷属魔法……。誰かの命令で行動している!」


「ファンタジーの世界とは思っていたけどそんな物騒な物もあるんだ……」


 ミオの言葉に顔を顰めるミナトだった。



 ヴェスタニアの西にある森で愚かにもミナトたち一行を襲った冒険者崩れのならず者の群れ。その大部分はシャーロットとデボラに瞬殺されもはやこの世には存在していない。生きて帰ることができたのはミナトへと襲い掛かった二人の冒険者崩れのみである。その一人がミナトと並走している痩せぎすの男、その名はゾビエ。ちなみに収納レポノで射出された男はカロンゾという。


 そんなゾビエは混乱しながらも『結果を報告しろ』という命令の下、その視界に捉えた信じられない現象を雇い主に報告するため必死に足を動かしていた。


 西の森で襲った冒険者から返り討ちにされ、どんな方法かは分からないが飛んできたカロンゾに馬車ごと吹き飛ばされるというとんでもない目に遭った。不思議なことに自身は軽傷で済んだため、重傷を負った御者とカロンゾを見捨て、密かにヴェスタニアへと帰還したのだがそこを何者かに襲われた。


 気付いたときにはその首に隷属の首輪なるものがつけられていたのである。


 そこからこの数日間は倉庫のような場所で監禁されていたのだが、この日の朝、とある命令と共に外へと放り出された。


 その命令とは、


『ヴェスタニア武具・魔道具新人職人技能大会の会場で爆発騒ぎが起こるからその顛末を確認し結果を報告しろ』


 というものだ。


 自身の隣で二体の人形を愛でている気味の悪い男も気になったが、それ以上に命令を下した者の姿に我が目を疑った。こういった裏の依頼は依頼主と依頼を遂行する者の間に仲介者を立てる。そうしなくては依頼者への足がつく可能性が跳ね上がる。だが目の前の男はゾビエのような裏の世界で生きるものなら必ずその名を知っているある商会の一人息子。どう考えても依頼主である。


 さらに怒気を孕んだ口調で命令と共に投げつけられる言葉をつなぎ合わせると、どうやらゾビエ達が失敗した冒険者襲撃の依頼もこの男が画策したものらしい。あの依頼で多くの冒険者崩れが行方不明になったことから、彼らを子飼いにしていた裏の仲介者たちに警戒され協力を取り付けることができなくなったようだ。


 そのため手足となって動ける者……、隷属の首輪を付けたゾビエを用意したということになる。


 まあ、ここまで来たらその辺りのことはどうでもよい。今のゾビエにできることは依頼主に爆破が失敗したという報告をすることだけだ。そうして隷属状態のゾビエは大きな敷地を構える商会へと到着し、建物の裏口から中へと消える。


 その一部始終をじっと見つめていたミナトとミオ。二人の気配には最後まで気付くことができなかった。

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