第242話 ネグローニとカンパリ・オレンジ
オーダーを受けたミナトは先ずタンブラーを二つ用意しそれを氷で満たした。この季節を考えてかち割氷を使っているが夏場ならクラッシュアイスも悪くない……。そんなことを考えつつグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアで買い求めたウンダーベルグの小瓶を取り出し、タンブラーへと注ぎ入れる。一杯につき一本だ。
そして炭酸水を静かに注ぐ。バースプーンを取り出し静かに軽く混ぜ合わせた。その姿はいつ見てもとても絵になる光景である。そしてそれを二杯分。
「先ずはシャーロットとオリヴィアに……。ウンダーベルグのソーダ割りです」
その言葉と共にグラスを二人へと差し出すミナト。そうしておいて次のカクテルへと取り掛かる。
「やっぱりこっちの方が苦みや薬草系の香りは強い……。でもこれはこれで美味しいのよね。苦みのあるお酒か……、なかなかに奥が深いわね……」
「これがウンダーベルグの味わいですか……。確かにカンパリに比べて苦みを強く感じますがとてもさっぱりとして美味しく頂ける一杯ですね。食後酒もいいですが、食前酒でも美味しく頂けそうです!」
美人エルフと中性的な魅力を誇る美人執事の感想を聞きながらネグローニに使うロックグラスを用意するミナト。
使うのはミキシンググラスとストレーナー。そしてよく冷えたジンのボトル、カンパリの小瓶、ブルードラゴンの里産であるスイート・ベルモットの瓶がカウンターへと並べられる。
ミキシンググラスに氷を投入する。バースプーンで軽く氷を回しミキシンググラスの温度を下げる。そうしておいてミキシンググラスにストレーナーを取り付けると氷が溶けた分の水を切った。次にストレーナーを取り外し、ジガーとも呼ばれるメジャーカップを使ってジンを二〇mL、ベルモットを二〇mL、カンパリを二〇mL、ミキシンググラスへと注ぎ入れる。バースプーンでステア。そうしてかち割氷を二つ入れたロックグラスへと静かに注ぎ完成する。
次はカンパリ・オレンジ。使うのはタンブラー。カンパリの小瓶を用意して、スクイーザーを使ってオレンジを絞る。当然ながらこのオレンジはレッドドラゴンの里で採れた極上ものだ。ウンダーベルグのソーダ割りと同じくタンブラーに氷を二個。そこへ、ジガーとも呼ばれるメジャーカップを使ってカンパリを十五mL。そしてタンブラーを極上のオレンジ果汁で満たし、バースプーンを使用して軽く混ぜ合わせる。
「どうぞ!ネグローニとカンパリ・オレンジです」
ミナトはそう言ってデボラとミオへとグラスを差し出した。
「うむ。乾杯!」
「ん。かんぱい!」
そう言い合って仲良くグラスを傾ける世界の属性を司るドラゴンの美女二人。
「こ、これは美味い……。ジンの爽やかさ、ベルモットの甘み、そしてカンパリのほろ苦さが絶妙な調和をみせている……。三種類を混ぜることでこのような味わいになるとは……」
「ん~。これは美味しくてとっても飲みやすい!ごくごく!」
デボラはネグローニを、ミオはカンパリ・オレンジをそれぞれ気に入ってくれたようだ。
美女たちの寛ぎつつも楽し気なその様子に笑顔を浮かべたミナトはツマミとなるナッツの盛り合わせを彼女たちに用意して、自身もカンパリソーダで乾杯する。
「いいね。カルボナーラの後にカンパリソーダ……、この組み合わせは最高だ!」
自画自賛のミナトであった。
そうして食後をまったりと楽しんでいると……、
「ミナト!明日以降はどうするの?」
シャーロットがそんなことを聞いてきた。
「う~ん……、大会の審査の日まではゆっくりしようと思ってるけど……」
そう答えるミナト。
アイリス達のような若手の職人が参加する今回の大会では審査が行われる日に素材採取のため雇われた冒険者が同席することになっている。
首都ヴェスタニアを目指す行程で護衛依頼を出してもらったグドーバルの話では、嘘を看破する特殊な魔道具を使用して素材入手の経路が多店での購入などではなく冒険者自身で入手したものかを確かめるとか……。独立して工房を構えた際、難しい素材はその採取を冒険者に依頼することが大半となるため信頼できる冒険者を見抜く目を養う訓練とのことらしい。
当然、ミナトたちも審査の日にはアイリスと合流することを取り決めている。大会の開催まであと十日、審査まではさらに三日と聞いていた。
「やっぱりヴェスタニアの街を出歩くのは避けた方がいいんだろうな……」
ミナトが気にするのはこのことである。冒険者としての活動中やダンジョン内は基本的にあらゆることが自己責任のため今回は力で全てを退けてきた。だがヴェスタニアの街中でアイリスやミナトたちを快く思わない者が何かを仕掛けてきた場合が困るのだ。そんな連中を力で退けることは容易いが、騒動を起こしたことでアイリスに迷惑がかかる可能性がある。
「……というわけでヴェスタニア観光はこの旅の最終目的地である地のダンジョンがある古都グレートピットからの帰り道までとっておこうと思います!」
そう宣言するミナトに頷いて肯定する美女たち。そうであれば次に明日以降をどう過ごすかなのだが……、
「ミナト!明日はゆっくり休むとして、明後日以降はアクアパレスに行ってみない?あそこのカフェって美味しかったじゃない?」
シャーロットがとびっきりの笑顔でそう提案してきた。
「うむ。あそこで食べたケーキ……、カトル・カールといったか?あれは美味であったからな!」
デボラが乗り気である。
「ん!カフェでマスターとゆっくりデート!」
ミオが嬉しそうにそんなことを言ってくる。
「カフェでケーキには私も興味があります!是非、同行させてください!」
オリヴィアも美味しいケーキには目がないらしい。
「いいね!ちょっとした休暇をアクアパレスで楽しみますか?」
絶世の美女たちから歓声が上がる。大会までの数日間。ミナトはひと時の休息を……、とれるかどうかは神のみぞ知るといったところである。
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