第237話 魔石鑑定の魔道具
「こ、これが全てブルー・フロッグの魔石……、ですか……?」
呆然とそう呟くのはアイリス。ミオの結界によって音と光が遮断されていたため魔石の鑑定に集中していたアイリスは何が起こったのかを把握できていなかった。しかし彼女の前には数えきれないほどに山と積まれたブルー・フロッグの魔石とその傍らには二百本以上の小瓶が積まれている。
「さっきまで鑑定していた魔石の中に特殊個体のものはあったの?」
シャーロットがアイリスへと尋ねる。その問いにアイリスは首を振り、
「残念ながらなかったと思います。私の魔道具が正常に作動していたら、ですけど……」
俯きながら言ってくる。
「確かアイリスさんが作ったって言っていたよね?特別な魔道具なの?」
とこれはミナト。砕けた口調でそう問いかけた。
「いえ……、それほど特別というわけではありません。この街の図書館に収められているかなり古い技術書にあった装置です。かなり古い技術書のため欠けている箇所があり、そこを自身で工夫する必要があるので職人の修行として作成する者も結構います。ただ特殊個体の魔石が滅多に手に入らないので……」
「作ったはいいけど検証されることは少ない?」
「ええ……、ですが正常に起動した記録がある魔道具が議事堂に中の回路まで展示されているのでそれと同様の機構であれば問題ないとされています」
アバウトというか緩いというか……、随分と微妙な魔道具制作だと思ってしまうミナトだが一つ気になった。
「アイリスさん。なんでこの魔道具が議事堂に展示されているの?何かの記念?」
議事堂に展示されるのはそういうことだろうと考えるミナト。
「展示してある魔道具は三百年前のものです。この国で初代評議員の一人であったドワーフが作ったとされています。ですがこの魔道具の設計図が載っていた技術書はこの国が造られるもっともっと前、二千年前の技術書と伝わっています」
二千年前という言葉にシャーロット、デボラ、ミオの三人が僅かに反応する。
「アイリス殿?その技術書に作者は?もしくはその魔道具の設計者などは分かっているのであろうか?」
今度はデボラがそう尋ねた。デボラの問いに今度は首を縦に振るアイリス。
「はい。その技術書は一人の職人によって書かれたと伝わっています。この国の建国よりも遥か昔、この地域にドワーフの職人が集まるきっかけを作ったとされる伝説の職人。ヴェスタントによるものであると……」
「そんなドワーフがいたんだ……。とするとこの国とか首都の名前って……」
ミナトがそう呟くと。
「はい。伝説の職人ヴェスタントからとされていますね」
アイリスが肯定する。
『ミナト!』
納得しているミナトにシャーロットから念話が飛んでくる。
『シャーロット?』
『アイリスちゃんを手伝ってもいいかしら?』
唐突にそう言ってくる。
『全然問題ないけど……?どうしたの?』
『ありがとう。ちょっと放っておけなくなったわ!』
そうしてミナトにとびっきりの美しい笑顔を見せるとシャーロットはアイリスへと向き直る。
「アイリスちゃん。私にその魔道具の設計図を見せてもらうことは可能かしら?それとも門外不出の技術ってことになるかしら?」
突然にそう言われて目を白黒させるアイリス。そんなアイリスに優しく笑いかけるシャーロット。
「私は魔道具に関してはそこまで専門というわけではないけど魔法に関しては間違いなく専門家よ。魔道具は魔法の効果が元になって設計されているはずよね?だから私なら手伝えることがあるかもしれないと思ったの。どうかしら?」
そう言われたアイリスは、
「ええっと……、それほど貴重なものではありませんし冒険者として情報を秘匿して頂けるのであれば問題ありません。設計図はここにあります」
そう答えて自身のマジックバッグに手を差し入れるアイリス。どうやらこれまでの経緯と先ほどの魔石の大量入手でミナトたちは一定の信頼を得たようである。
冒険者は依頼の遂行を通して得た情報を他に漏らしてはならない。これに関しては問題が起きた場合、かなりのペナルティが課されるはずだ。当然、アイリスの設計図の情報をミナトたちが他に漏らすことなどない。
「これです!」
その言葉と共に一枚の設計図がシャーロットへと手渡された。受け取った設計図をじっくりと眺めるシャーロット。古代ドワーフ文字で書かれているため図が書いてあること以外ミナトにはさっぱり分からない。
しばらく設計図を見ていたシャーロットだが……、
「ふふ……、あの子は本当に頑張ったのね……」
いつもの美しさはそのままに、慈愛に満ち溢れたという言葉がぴったりだと思えるとても優しい笑顔でそう呟くのであった。
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