第233話 デボラを待つことにする
シャーロットが特殊魔法と呼んだ
「シャーロット!これってすごい魔法じゃない?」
驚きながらミナトがそう声をかけてくる。
「ふふん。これが私の実力ってやつね!もっと褒めてもいいのよ!?」
そう言ってドヤっとポーズを決める絶世の美人エルフ。その姿は疑問の余地がないほどにとても美しい。
「でもどうやって魔石と小瓶だけが回収できるんだ……?」
ミナトがそう呟くのを美人のエルフは逃さない。
「ミナト!いい質問だわ!
「それって……」
「ん。この世界にいる使い手はシャーロット様のみ!」
ミナトが言いたかったことをミオがしっかりと断言する。どうやら非常に使える魔法だがとんでもない魔法でもあるらしい。
「ん。かつての大戦……、屠りつくした魔物の素材をこれで……、むー、むー」
「ま、昔のことはいいじゃない?」
ミオが何か物騒な続きを言うところを後ろから口を押さえ黙らせる美人エルフ。少し力が入っているようでミオを結界の端へと引っ張って行くと何やら話し合いを始めた。
『聞かない方がいい奴だよね……。ま、いつか話してくれるでしょ……』
とりあえずお話合い中のシャーロットとミオはそのままに魔石の山を見て呆然としているアイリスに向き直るミナト。魔石はおそらく第一階層などで得られるそれよりも大きなものだ。
「アイリスさん。とりあえずこれだけ魔石が取れました。五個という話でしたが、まあ多いに越したことはないでしょ?それにここは安全ですからどうぞ特殊個体の魔石かどうかの鑑定をしてください。まだまだ採ってきます!一万匹に一匹って話でしたけど、見て分かるように結界の外にいくらでもいますからね。目標は特殊個体の魔石が五個ということで?」
笑顔のミナトにそう言われたアイリスは、
「あ、あの……、ありがとうござい……、ます……。いいんでしょうか……、こんなにたくさんの魔石を……、大きさも上層で得られるものより大きいですし……」
外では大量の大きなブルー・フロッグが結界へのアタックをし続けているがここは安全。そして目の前には大量の魔石。そんな状況にまだ心がついていっていない様子のアイリスではあるが自身のマジックバッグから小型の魔道具を取り出す。どうやら特殊個体からの魔石の判別に使う魔道具のようだ。
「あ、そう言えば大会で認められた素材以外は使えないんでしたっけ?特殊個体の魔石は大丈夫なんですか?」
「は、はい。こ、今回はブルー・フロッグのドロップ品は使用可能という規定なので問題ありません」
ミナトの問いにそう答えるアイリス。であれば小瓶をもっと欲しいミナトと全て特殊素材からの魔石の方がよいアイリスとは利害が一致していることになる。
「よし狩りの続き……、って、あれ?デボラは?」
最後に重水の部屋に入ってくるはずのデボラの姿が未だになかった。
「ミナト!さっきこの部屋に入る前だけど……」
ミオとの話し合いを終えたシャーロットが近づいてくる。
「何かあった?」
「あのゴウバルとかってドワーフと一緒にいた冒険者どもの気配を感じたのよね。もし襲い掛かってきたとしたらデボラが迎え撃っているわ……」
シャーロットの言葉に何とも言えない表情になるミナト。
「きちんと警告は与えたと思ったのだけどな……。デボラには嫌なことをさせてしまうね……」
「デボラは相手が何もしなければ手を出すことなんてしないわ。だけどそんなまともな連中ならミナトからあんな威圧を受けた後で追ってくるなんてしないわよね……」
「あとでデボラには謝ろう……」
そう呟くミナトを前に、
『ふふ……。ミナトのそういうところ好きよ。でもデボラはそんなこと気にしないわ!覚えてる?あの子は
シャーロットがそんな念話を飛ばし、
『ん!ボクもデボラを大切にするマスターが大好き!』
ミオもそんなことを言ってきた。
「魔石もたくさんあるしアイリスさんの鑑定もすぐには終わらないだろう……。デボラを待って次の狩りまでちょっと休憩に……、あ、一つだけドロップした小瓶を確かめよう!」
「「賛成!」」
座り込んで黙々と魔石の鑑定を進めるアイリスの傍らでミナト、シャーロット、ミオの三人がそんな会話を繰り広げているとき……、
「うむ……。攻撃をするなら早くしてほしいものなのだが……」
重水の部屋への扉を前にデボラが少し俯きつつそう呟く。傍目からは入室を躊躇しているように映っているかもしれない。
『まったく……、斥候が気配を悟られては意味がなかろう……』
そんなことを心で呟いてみる。そこまでは振り向いたときデボラの視界に収まる範囲だ。さらに索敵範囲ギリギリのところに複数の気配がある。これがゴウバルと残りの冒険者か……。
『ふふ……。マスターは我に嫌なことをさせたと思うのだろうか……?そんなことは露ほどにも我は感じておらぬが……』
ふとそんなことを思ってしまうデボラ。ミナトはこの世界に来る前も来た後も直接的に同族を殺したことがない。命の軽いこの世界でミナトのように冒険をしていればいつかはそんな機会が必ず来る。しかしシャーロットもデボラもミオもそれを望んではいない。
ミナトに代わってシャーロットたちが手を汚すことをミナトは少し気にしているようだった。
『もしこの部屋に入ったところでマスターがそんなことを気にしていたら……。気にすることはないことをしっかりと伝え……、今夜の相手をしてもらうよう甘えるとしようか……』
俯いたままだが口角が上がってしまうのは止められない。思わず今夜の甘いひと時を想像して少し赤くなっている頬を抑えてしまうが……、
『うむ。来たか!』
自身に向けて矢が放たれる気配を察する。
『攻撃を仕掛けてくるというなら容赦はせんぞ!?』
抜群のプロポーションを誇るデボラのその見事な肢体から膨大な量の魔力が溢れ出すのであった。
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