第189話 今夜の夕食をどうするか……
「さーて、お腹も一杯になったことだし、おばちゃんに教えて貰った宿に行くとしますか?」
そう言いながらミナトはグトラの街の大通りをシャーロット、デボラ、ミオの三人を連れてゆったりと歩いていた。大変に美味であった昼食に満足したミナトはここグトラの街をよく知っているであろう店員のおばちゃんに冒険者が泊まることができる良い宿を教えて貰った。
ミナトたちはF級の冒険者だがデボラと出会った火のダンジョンでサラマンダーを斃しまくって得たルビーや、ミオと出会った水のダンジョンでジャイアント・フロッグを狩りまくって得た魔石を換金しているので金には全く困っていない。実は普通に暮らすのであれば一生涯分のお金は既にあるかもしれないとミナトは思っている。冒険をして世界を見て回るつもりなので冒険者を止めるつもりはなかった。
教えて貰ったのはそれほど規模が大きくはないが落ち着いた雰囲気の宿だった。看板には『ドラゴンと踊る鍛冶亭』と書いてある。思わず、
「ネーミングがファンタジーだ……」
そう呟いてしまうミナト。入ってみると大きなカウンターがありそこがレセプションらしい。空間を大きく取ったロビーのようなフロアとその傍らにカフェのようなスペースが併設されている。カフェスペースだけでなくロビーでもコーヒーや紅茶を飲めるようなシステムを採用しているらしい。寛いでいる客は装備こそ解除しているがその隙のない佇まいから冒険者だと思われる。魔法が使える者もいるようだ。どうやら稼げる冒険者の常宿といったところらしい。
そんな方面からは好奇心に溢れた視線が飛んできているらしい。シャーロットたち魅力に気付いたのだろうが、流石にこんな高級宿に泊まる冒険者に、その場でちょっかいを出すような愚か者はいなかったらしい。
ここでは揉め事は無さそうだと判断したミナトがそんな宿……、というかホテルのカウンターで四部屋をお願いしようとしたのだが、
「すいません。生憎と本日は混みあっておりまして……」
ミナトはあえなく撃沈する。『ではふたへ…、いや三部屋は?』と言おうとして、
「本日、スイートがございます。四名様でもゆったりとお寛ぎ頂けるかと思いますが?」
カウンターの女性がしれっと提案してきた。この世界では貴族以外は少ないとはいえ一夫多妻制は決して珍しくはない。困ったような表情を浮かべるミナトだが、
「ミナト!別に一部屋でいいんじゃない?」
「そうだぞ!マスター!普段同じ建物で暮らしているではないか?」
「ん。普段から寝室も一緒!」
シャーロット、デボラ、ミオがさも当然という感じで言ってくる。確かにそうなのだがシャーロットたちを引き連れて一部屋をオーダーするのはちょっと恥ずかしいミナトであった。ちなみに野営の時のテントは一人用を四つ使っている。それとミオの言葉に反応したのかカフェスペース方面から強い殺気の籠った視線が送られるようになった気がするが気にしないことにする。結局、
「その部屋でお願いします……」
ミナトに反論の余地は与えられず、彼は提案に従うのであった。スイート一泊ディルス白金貨三枚であった。ディルス貨幣の貨幣価値は、
ディルス鉄貨一枚:十円
ディルス銅貨一枚:百円
ディルス銀貨一枚:千円
ディルス金貨一枚:一万円
ディルス白金貨一枚:十万円
つまり一泊三十万円。簡単に払えるミナトたちはやはり稼げる冒険者であった。
「広い……」
客室のドアを開いて思わず立ち尽くしてしまったミナトが最初に呟いた台詞がこれである。建物自体はそれほど大きくはないと思っていたが、奥行きがあったらしい。どうやらこの部屋はツーベッドスイート。つまりベッドルームが二つとそれとは独立したリビングがあるという設えになるようだ。リビングに置かれたソファやテーブルといった備え付けの家具はどれも落ち着いたデザインで好感が持てる。とても雰囲気のいい部屋に泊まることになったようだ。
「マスター!この部屋は大きな浴室がある!ゆったりと水浴びができるのはよいことだ!」
「ん!快適な浴室!広い!」
一足先に部屋の探索へと赴いていたデボラとミオがそう報告してくる。
「ミナト!ミナト!こっちこっち!」
リビングの奥からシャーロットが呼んでくる。声の方に足を運ぶとそこにはさらにもう一部屋分の空間があり、ダイニングとカウンターのようなものを挟んでキッチンが設けられていた。どうやらキッチンまでついている部屋らしい。
「ミナト!今夜の夕食は食材を買ってきてここで食べない?ミナトのカクテルも飲みたいわ!」
シャーロットの提案にそんな夕食も悪くないと思うミナト。元の世界で海外旅行をした際に、最低一回の夕食は現地の食材、お酒、テイクアウトの料理などを買ってきてホテルの自室で楽しむことをしていたものだ。
「いいね!まだ日も高い。ちょっと市場を見てこようか?」
「マスターの料理とカクテルか?ワインもある。それは素晴らしい夕食だ!」
「ん!昼ごはんも美味しかったけど、マスターのご飯とカクテルなら夜はもっと楽しみ!」
ミナトの回答にいつの間にか背後に建っていたデボラとミオも賛同する。
「ルドラの街のエールや牡蠣以外の食材は何があるのかな……?エールはまた買って夜に飲んでもいいけどね」
ミナトはまだ見ぬグトラの街の食材を考え笑顔になるのであった。
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