第77話 キール完成
「ミナト!次のカクテルはワインを使うの?」
シャーロットが輝く笑顔で聞いてくる。どうやら興味があるらしい。
「ああ。今回は白ワインだ。ルガリア王国の王都では秋以降じゃないと手に入らないと言われていたけど、貴族の方々は保管技術を持っているみたいだからね」
ミナトのセリフを聞いた先代公爵はニヤリと笑って口を開く。
「よく知っておるな…。その通り、ワインは美味い酒だが保管が難しい。市井の者たちには秋から冬の初めにかけての飲み物とされておる。だが一定の室温を保つことができる環境であれば長期保存が可能なのだ。そして特に長期保存された赤ワインはより美味い味わいへと変化する…。貴族の中にはその味を競って楽しむ者たちも多いのだ。してミナト殿よ。貴殿は白ワインを使って…?」
「ええ。ジン・ソーダとは全く異なる味ですが、ブラックカラント酒と白ワインで作るカクテルはとても美味しいですよ。特に食前酒にはぴったりです」
モーリアンの表情が幾分引き締まる。
「ミナト殿。白ワインはどのような銘柄を所望する?」
「私の故郷とは銘柄は大きくことなるので銘柄での指定は難しいですが、酸味が強くて軽やかでフレッシュな味わいのものがいいです」
「ガラトナ!」
その一言で執事は部屋を後にするのであった。執事の背中を見送ったモーリアンがミナトへと視線を戻す。
「ミナト殿。ブラックカラント酒と白ワインを用意するのでそのカクテルを作ってもらえないだろうか?」
「ええ。喜んでおつくりさせて頂きます」
モーリアンの願いに二つ返事で頷くミナト。
ということで皆厨房へと移動する。貴族の先代当主などは厨房などに顔を出さないのではないかと考えたミナトだがミリムによるとちょいちょい顔を出しては酒の肴を無心しているらしい。
厨房内のテーブルにはブラックカラント酒と白ワインのボトルとワイングラスが五つ。モーリアン、ミリム、シャーロット、デボラに加えて料理長にも味見してもらう。
その周囲には執事のガラトナや手の空いたメイドや使用人が周囲を取り囲み興味深そうにこちらをみている。こういった使用人たちを不敬に問わないあたりやはりモーリアン達は気さくな人柄らしいと推測された。
ミナトは白ワインのボトルを抜栓する。驚くことにソムリエナイフは元の世界とほとんど同じ造りであった。その見事な所作を見ていた給仕を担当している者が息をのむが今はそのことは気にしない。
別のワイングラスをもらって味見…。そしてクレーム・ド・カシスも味見する。
「これはいい感じにアリゴテっぽい…。今回はこれでおっけーだけどこっちのワインも勉強したいね…。そしてこっちはやっぱりクレーム・ド・カシスだ。ふふ、運がよかったって思いたいね」
満足げな笑顔と共にそう呟きつつカクテルの作成に入る。バースプーンとジガーとも呼ばれるメジャーカップはここにはないので細長いスプーンを貸してもらった。
「シャーロット!このグラスとワインとクレーム…、じゃなかったブラックカラント酒を冷やしてくれる?今回は氷を使わないカクテルだからグラスが濡れないようにお願いしたいのだけれど…」
「任せて!」
そう言ってシャーロットがグラスと二つのボトルに手をかざすとあっという間にそれらが青い光に包み込まれた。
「な、なんという魔力の制御…」
モーリアンが驚愕の表情を浮かべているし、周囲からもどよめきが上がってくるがこれも気にしないことにする。
「はい!ミナト!できたわよ」
「ありがとう」
そうして冷やされたワイングラスにクレーム・ド・カシスを注ぎ入れる。その次に白ワイン。今回はクレーム・ド・カシスと白ワインの比率は一対四。ここは好みでよいのだがまずは一般的な比率とした。スプーンを使って静かにステアする。この作業を五杯分…。そうして、
「どうぞ!キールというカクテルです」
満足げな表情でミナトは皆にグラスを差し出すのであった。
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