第70話 大森林で狩りをしよう
「
ミナトの呟きに連動するかのように、彼の右手、その人差し指から細い漆黒の鎖が放たれた。確かに外見は鎖ではあるのだがその漆黒の鎖は蠢く触手のような有機的な動きを伴いつつ、凄まじい速度で高い樹木の枝で寛いでいたであろうキジバトを捕獲する。
「これで五匹目っと。結構簡単だよね!」
笑顔でミナトはそう連れの二人に向き直る。しかし絶世の美貌を湛える二人はミナトへと生暖かいような視線を送っていた。
「うー、いつ見ても嫌な感じの動きをする鎖よね…。でも驚くくらい簡単に捕まえてるわ。キジバトは大きくないから魔法で攻撃すると肉が傷むし、弓矢では狙いにくいから捕るのは結構難しいのよ?ギルドでも結構いい値段で引き取っていたはずだわ」
シャーロットがそんなことを言ってくる。初めてこの闇魔法を発動した時、漆黒の鎖にあられもない姿で捕獲されて以降、この魔法はあまり好きではないらしい。
「でもシャーロットの魔法ならできるんじゃないの?」
「森の中で炎の魔法は延焼が面倒だし、水、氷、風とかの魔法で首を落とすとかはできるけど、ここまできれいに捕獲するのは難しいと思うわ」
美人のエルフが素直に称賛してくれるのはとても嬉しいと思うミナトである。
「さすがの魔力操作というべきか…。見事すぎて言葉が見つからないというか…」
デボラもシャーロットの思いに同意を示す。
ここは王都の東に広がる大森林。ミナトがシャーロットと初めて出会った森であり、Barの建材として使用されているエンシェントトレントを討伐した森でもある。最近もBarが休みの時にシャーロットやデボラと訪れ訓練や採取依頼をこなしていることもあり、ミナトにとっては馴染みの森であった。
この大森林は動植物の楽園であると同時に魔物が跋扈する危険な森であるというのが王都の民の認識である。場所によってはダンジョンもあるらしく冒険者にとってはリスクに見合うリターンが望めるという、稼げる森ということになっているらしい。
そんな本来は危険とされている大森林でなんの危機感も持たずに狩りを行っているのがミナト、シャーロット、デボラの三人である。彼らにとってはちょっとしたピクニックに来たようなものであった。
とりあえず大森林のちょっと奥の辺りに到着してまだ一時間も経っていないが、すでにキジバトを五匹捕獲している。銃という武器のないこの世界の基準ではありえない程の成果と言えた。
「鹿もいるって聞いてたけど出てこないね?」
「ミナトの闇魔法の魔力に怯えて近づいてこないんじゃない?」
「鹿って魔物じゃなくて動物だよね?魔力って感知できるの?」
「この辺りの動物は魔物から逃げて生活しているからある程度は感知できると聞いたことがあるわ」
「なるほどね…」
呑気に話すミナトとシャーロットの会話を森の奥を見ていたデボラが制す。
「二人とも!索敵を適当にしているな?何かが近づいてきたぞ?」
そう言われて二人も視線を森の奥へとむけた。
「本当。結構大きな魔物みたいね…」
「これは…、ちょっと大きいか…」
シャーロットとミナトも近づく気配に反応した。何か巨大な気配が徐々にこちらへと移動しているようだ。待ち構えていると視線を遮っていた木々が一息になぎ倒され一体の魔物が姿を現す。
「鹿!?大きすぎない?」
ミナトがそんな声を上げる。ミナトの言葉の通り、三人の視線の先に現れたのは体高まででも三メートル。首と角を含めると六メートルはあろうかという巨大な鹿の魔物であった。
「ジャイアントディアー!鹿型の魔物ね。よかったじゃないミナト!私たち運がいいわ!」
とびきりの笑顔でシャーロットが言ってくる。
「え?」
思わず聞き返すミナト。
「あれは美味しいのよ!そして体が大きければ大きいほど味が良いって言われているわ!あれは本当にめったにお目にかかれない最大サイズ!ごちそうがこちらへ歩いてくる!」
「うむ。ジャイアントディアーは美味い。かつて生で食したがそのときも美味であった。それを料理して食すことを考えると我も興奮してしまうぞ!」
嬉々としてそんな反応をするシャーロットとデボラ。どうやらこの巨大な鹿の魔物は二人にとって美味しい肉以外の何物でもないらしい。
「さあ!ミナト!あなたの出番よ!あの鎖で縛って動けなくして頂戴!私が心臓を一突きするわ!」
「うむ。マスターのおかげで理想的な血抜きができるな。ジャイアントディアーは血抜きが重要なのだが暴れると肉質が落ちるのだ。さあ、マスターよ。今こそマスターの闇魔法の神髄を!!」
何かものすごく便利な使われ方をされているようであるが、ガチの美人二人に笑顔でそんなことを言われて悪い気もしないミナトである。
「分かったよ…。
本日何度目かの闇魔法を発動したミナトの右手から放たれた漆黒の鎖が巨大な鹿へと襲い掛かるのであった。
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