第七章:過去、今、未来
第一話:ライバル達?
皆で遊園地に行った翌週。
ついに突入したゴールデンウィークの初日、四月二十九日。
学生は残念ながら飛び石連休のため、明日は学校なのだが、それでも休みが多いこの時期は、夏休み等と同様、とても嬉しい一時の始まりでもある。
* * * * *
多少白い雲はあれど、風もなくとても良い快晴。
そんな青空の元、諒と
互いに白のテニスウェアに身を纏い、黄色いテニスボールを交互に打ち合いラリーを見せるのだが。その動きは周囲の客以上の鋭さを放っていた。
コートの隅を狙う
鋭い球に食らいつきラケットで返した諒の狙った先は、自身の立つ直線上の隅。
だが、
ベンチで二人のプレイを見守っている、同じくテニスウェアの
互いに鋭い球の応酬を見せた二人だったが。
何度目かのコーナーを突く鋭い球を、諒が何とか伸ばしたラケットで返した球がネット際で高く舞い、そこに詰めた
見事にインした球に彼が追いつけるわけもなく、そのラリーを
「くっそぉ! もうちょいだったのに!」
試合巧者だった
「いやいや。ほんと諒の成長は油断ならないね。今日なんて完全に接戦だったし」
ネットを回り込み歩み寄った
やはり経験者の余裕なのか。汗を腕で拭い、爽やかな笑みを向ける。
「たまには鼻を明かしてやろうと思ったんだけどなぁ」
「正直そろそろ危ないよ。今日はかなり本気だったし」
「そう口にできるだけまだまだ余裕じゃないか。ったく」
立ち上がるのに手を貸すように腕を伸ばした
「お兄も
「お、サンキュー」
「ありがとう」
二人に歩み寄った
「しっかし、
彼等が飲み物から口を離したのを見計らい、諒にタオルを差し出した
「全然そんな事ないよ。テニスだって結構前から
軽く頭を下げ礼を返しつつ、受け取ったタオルで汗を拭きながら、諒は少し気恥ずかしげに笑みを返す。
──ひゃ~! せっくし~! 今日一緒にテニスするって言っておいて良かった~!
その爽やかさと汗に濡れた姿に内心大興奮ながら、それは表に出さず
タオルを受け取った
「でも、諒って本当に昔から何でもそつなくこなしちゃうんだよね。多分テニス一本で頑張ってたら、僕なんてあっさり抜かれちゃうよ」
「買いかぶり過ぎだって。それより次は二人が勝負かな?」
少し恥ずかしげな顔をしつつ、諒が話を逸らすように
「妹ちゃんってどれくらいテニス上手いの?」
「
「私も中学校で友達と遊んだ位なんだよね~。変な所飛んだらごめんね」
「こちらこそです」
二人は以前のドリフトカートの時とは打って変わり、互いにやや自信なさげな顔を見せる。
勿論それは互いに本心を曝け出しただけなのだが、この会話だとあまり面白い勝負にならなそうに感じたのか。
「ねえ、諒。折角なんだし、勝ったほうにご褒美をあげようか?」
「え? ご褒美?」
にっこりと微笑む彼の一言に、問い掛けられた諒が思わず
その言葉に耳をピクリを動かしたのは戦う二人。
「
「そうだな~。二人は何がいい?」
敢えて彼女達に尋ねると、二人は一度顔を見合わせる。
「私は、特にそこまで考えてないんですけど。
少し考えるも、良いアイデアが浮かばない
「そうだなぁ。じゃ、諒君に褒めてもらいながら頭撫でてもらおっか?」
「はぁっ!?」
にんまりとしながら彼女が提案した内容に、諒は思わず目を丸くした。
「そんなのご褒美になんてならないでしょ? だろ?
と、思わず妹に同意を求めるも。彼女は返事をせず真剣な顔を
「……
「何? やっぱりそれじゃ不服? そうだったら妹ちゃんは別のご褒美でも──」
「それでいきましょう! 女に二言は許されませんもんね!」
「……おいおい。それを言うなら男だし。それにそんなのでご褒美なんて──」
「さっすが妹ちゃん。じゃ、
「はい!」
「……なあ、
「何だい?」
「あんなのご褒美になるのか?」
「さあ。ただ、二人はそれで満足してるみたいだし、いいんじゃない?」
何とも言えない困った顔を向けてくる諒に、彼はくすりと笑うと。
「じゃあ、僕が審判をするから。二人とも頑張って」
そう言って彼は審判席に向かっていく。
「諒く~ん! 私が勝つようにちゃんと応援してね~!」
「お
「妹ちゃんぐいぐい来るね~! でも負けないからね!」
「こっちこそです! 絶対負けられないですから!」
互いに不敵な笑みを浮かべる女子二人。
それを面白げに見る
そんな三人を見ながら。
「何が何やら……」
未だ二人の恋心を知らぬ諒は、やれやれと呆れながら、一人ベンチに腰掛け、疲れた顔のまま戦いを見守るのだった。
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