第十話:油断は禁物
あれから十五分程。
諒と
空気の読めないような会話をしながらの移動は、薄暗さから感じる不気味さと縁遠くなり。
兄を翻弄した妹は、既にかなり元気を取り戻していた。
「あ、諒君に妹ちゃん。お帰り~」
「諒様。
目的地に到着すると、既にそこには元気そうな
「あ、やっぱり流石に怖かったか~」
諒達がヘッドマウントディスプレイやヘッドホンを外しているのを見て、
と同時に、
「流石にちょっと怖くなっちゃって。
先にそう自然と口にしたのは諒だった。
「諒様も怖いものは苦手なのですか?」
「うん。あまり得意じゃないんだよね。椿さんは凄く楽しみにしてたけど、どうだった?」
「はい。とてもすごい演出の数々で、興奮いたしました」
その流れのまま笑顔で椿と会話を交わす兄を見て、目を丸くしていた
──やっぱりお
そんな彼女の表情の変化に気づいた
「妹ちゃんも優しいよね~。この兄あってこの妹ありって感じ?」
「お
「あ~、分かる分かる。萌絵と一緒にいるって言ったのもそうだもんね~」
「ですよね。勿論、
「ほんとほんと? そういう時はもっと褒めていいよ?」
上手いこと言ったよね、と言わんばかりの自慢げな顔でそうアピールする
チーン
と。
その時、古めかしいベルの音と共に、二階用のエレベーターのドアが開くと、そこから
「ご、ごめんね、待たせちゃって。……どうしたの?」
予想外の反応に、思わず首を傾げた萌絵だったが、二人の興奮は収まらない。
「これは本当に凄いですよね!」
「うん凄い凄い! こういう仕掛けになってるんだね~」
「もう! 凄いだけじゃ分からないでしょ?」
じろじろと見られるのが恥ずかしかったのか。
困った顔をした萌絵に、
「あのね。二人共、幽霊取り憑いてるの」
「ええっ!?」
その言葉に驚いて
特に萌絵は、またも少し顔を青ざめさせている。
実は彼女もまた、あまり怖いものは得意でなかったため、
とはいえ。それでも
「俺と
「はい。きっと最後に戻ってきた人が取り憑かれていた、という事なんでしょうね」
「へ~。そういう所も凝ってるんだね」
椿の説明に、
「ね? ね? も、もう出られるんだよね? 早く出よ?」
「まったくも~。萌絵はほんと怖がりなんだから」
萌絵が思わず皆を急かすと、
「私達のとこはカードキーがあったけど、そっちは?」
「僕達は制御コンソールでドアの開閉システムをオンにしたよ」
「こっちは配電盤いじってきた。これで
「多分ね。じゃあやってみよっか」
そしてドアがすーっと開いた瞬間。
「グワァァァァッ」
雪崩れ込んできたのは、キャストが扮するゾンビ達。
それを見た瞬間。
「「キャァァァァァァァ!!」」
萌絵と
* * * * *
恐怖系アトラクション故か。
施設内部で、プレイ後に休憩できるエリアが設けられていた。
そこには、恐怖心に駆られた多くの者達がぐったりと椅子に座り休んでいたのだが、そんな中に萌絵と
「も、もう……。私、絶対怖いの嫌だからね……」
「同感です。心臓、止まるかと思った……」
青白い顔で項垂れる萌絵の言葉に共感した
立ったままその姿を見ながら、椿を除く三人は思わず苦笑してしまった。
まさか最後にあんな演出が待っているとは知らなかった諒や
「ですが、最高に楽しい時間でしたよね?
一人、椿だけはけろりとした顔で、脇に立つ彼女に笑顔で同意を求めてきた。
「確かに演出も凄かったし、
──じゃないと、萌絵や妹ちゃんもたなそうだし……。
何となく椿に選ばせるのは危険だと察し、
「だったら、観覧車とかどうかな?」
諒が突然、少し恥ずかしそうに頭を掻きつつ、そんなアイデアを口にした。
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