第五話:口は災いの元
あれから十分程。
無事空いた最も端のレーンに入った五人は、椅子に座って先に借りてきたレンタルシューズに履き替えていた。
そんな中。
「ねえ、諒君」
「え? 何?」
「あのさ。君、何者なの?」
確かにこの若さでマイボールにマイシューズなど、普通に考えたら尋常ではない。
しかも、妹の
直感的に、
「えっと、まあその。何者って、言われても……」
諒は思わずしどろもどろになると、その場で困った顔をするしかなかった。
──やっぱり
今まで
しかし。
彼女達の前では、それは当たり前でないと知り。
自分の行動が、
彼女の当たりの強さが、気づけば苦手意識を生み。
そんな負の連鎖が、やはり友達になどなれないんじゃないかという、心の弱さを生み。
「ご、ごめん……」
諒はそう呟き、気落ちすることしかできなかった。
嫌な空気に、
折角の友達。
だからこそ、
そして何より、まだ出会って間もない年上の先輩に自分がどこまで割って入ってよいのか困る
二人がこれ以上険悪にならず、仲を取り持てるような妙案も浮かばず、動くことができない。
楽しいはずの時間に、濃い暗雲が立ち込めそうになった、その時。
「もう!
先にシューズを履き終えた萌絵が、少し強い口調で隣に座った彼女の前に立った。
大人しそうに見える彼女らしからぬ、はっきりとした不満と怒りを見せて。
──やっばっ!
瞬間。
心の叫び。それは自身が無意識にやり過ぎたと気づいた瞬間だったが、時既に遅し。
「あなたは自分が思う通りじゃないと、すぐそうやって人に当たるんだから」
「あ。その……そういう、訳じゃ……」
「そういう訳でしょ?」
後ずさりたくてもできない為、椅子にしがみつくようにして身を必死に引く、引き
それはまるで、母の説教に怯える子供のようにも映る。
「あなただってカラオケで歌った後、諒君に褒められて嬉しそうだったじゃない。それなのに、諒君からボウリング上手そうな雰囲気感じただけで、何でそれを悪いみたいにキツイ言い方してるの?」
「そ、それは、その……」
「本当は後で言おうと思ってたけど。諒君が歌わなかったのだって、歌いづらい事情とかあるかもしれないでしょ? その分私達
その心の内には、彼女がすぐ第一印象で人を決めつける、悪い性格への戒めもあったが。
──何で諒君にだけ、そんなに厳しいのよ。もう……。
そんな、想い人を責める友達に対する
「も、萌絵さん。そこまでにしよう?」
追い詰められた彼女に救いの手を差し伸べたのは、意外にも諒だった。
「二人共ごめんね。俺、あまり友達いなくて、こういう機会って
「そんな! 諒君は悪くないよ!」
突然の事に怒りをさらっと忘れ、逆に動揺し戸惑う萌絵。
だが。諒は「ううん」と大きく首を振ると、顔を上げ、じっと真剣な眼差しを彼女に向ける。
「折角二人が
強い視線を受け。萌絵の心から怒りは完全に消え。残ったのは罪悪感と気恥ずかしさ。
──諒君。優し過ぎだよ……。
隣で何か憑き物が落ちたような顔をした
「あの……こっちこそ、ごめん。本音言うとさ。萌絵に白黒はっきりしてあげなかったの、納得いってなくって。それがずっと引っかかっちゃってたから、ちょっとした事、すっごい気になっちゃって……」
バツが悪そうな顔で、ペコリと頭を下げた。
裏表のない告白に、諒はふっと表情を和らげた後。
「それだけ萌絵さんの事、友達として大事にしてる証拠だから。だから
優しげな微笑みと共にそう言葉を返すと、彼はすっと立ち上がり。
「よし。じゃあ
そう言って一人、先にレーンの待合席から出て、自動販売機に向かい歩き出す。
「あ、お
慌てて
諒の優しさを肌で感じた
「諒って不器用だけど、本当に優しい奴なんだ。だから少しだけ、大目に見てあげてくれると嬉しいかな」
「萌絵さんも。諒の為に、ありがとう」
そう礼を言って、諒以上に爽やかな笑みを向けた。
「二人が心配するよ。早く行こう」
二人をそう促すと、
残された二人は、一度互いの顔を見る。と、すっと
「……萌絵。ごめん!」
そう言って、頭を深々と下げる。
そんな彼女に。
「こっちこそ。こんな所でごめんね」
そっと彼女の肩に手を添え、申し訳無さそうに小さく苦笑すると。
「じゃ、行こ?」
そういって、
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