時間の矢
「時間の矢」を考えるという謎
時間に関する諺は昔からいろいろありますね。
「光陰矢の如し」「歳月人を待たず」「一寸の光陰軽んずべからず」「光陰に関守なし」「歳月人を待たず」…調べれば他にもたくさんあります。因みに「光陰」というのは時間の事で、光は日、陰は月。日と月で時間を表しているんだそうです。
「光陰矢の如し」は英語では「Time flies like an arrow」。「arrow」は「矢」という意味ですから、時間の流れを矢のように感じるのは東洋人も西洋人も同じのようです。
おっと。「時間の矢」についてお話ししなければなりませんね。
「時間の矢」という言葉を最初に使ったのは天体物理学者のエディントンだと言われています。「一本の矢印を考えた時に、その矢印の方向に向かって乱雑さが増えていればそれは未来に向かっている矢印であり、乱雑さが減っていれば過去に向かっている矢印であると言え、この考え方を許してもらえるならば、この矢印の事を『時間の矢』と呼ぶ」と言ったとか言わないとか。
要するに「経験上、特に整理とかしない限り物事は過去から未来に向かって乱雑な方向に向かっていくと考えられるので、時間が一方向に進んでいくことを『時間の矢』と呼ぶことにします」という事です。
「時間の矢」宣言をした時にエディントン自身はどういうつもりだったのかは知りませんが、まさかこれが物理学の未解決問題になってしまって、後の物理学者たちの頭を悩ませることになろうとは思いもしなかったでしょう。
私たち素人からしてみれば時間が一方向に進むなんて至極当たり前の事であって、時間は巻き戻せないという事を分かっているからこそ「あの時に戻れたらなあ」とか「時間よ止まれ」なんて、絶対に叶わないような事を願ったりするし、そういう小説や映画が作られるわけです。科学者っていうのは本当に訳の分からないことで頭を悩ませるものだなあと思うのですが、実際にはどうなのでしょうか。
例えばですが、斜め上に向かってボールを投げる映像を撮影したとしましょう。この映像を再生します。勢いよく投げられたボールは頂点に近づくにしたがってスピードを落とし一瞬止まると、その後は徐々にスピードを上げながら落ちていきます。
次に、ボールを投げる手と、ボールが地面に落ちるところを編集でカットしたものを再生します。これもボールは先ほどと同じような軌跡を描くでしょう。もしこの映像を逆再生したとしたらどうでしょうか。ボールが投げ上げられる、ボールが落ちる。何も知らない人が初めてこの映像を見せられたとしたら、逆再生なのか普通に再生されたものか区別がつくでしょうか?
空気抵抗というものがありますから、注意深い人なら区別できるかもしれませんが、もしも空気抵抗がない真空状態での実験だとしたらどうでしょう。区別するのは難しくなるはずです。
こんな風に物理現象っていうのは、時間が進むか戻るかに関係なく成立してしまうものなんです。だったら時間が反対に進んでも良いんじゃ?って科学者達が考えてしまうのは仕方ないのかもしれません。ただ、少なくともこんな軽いノリで科学者達が時間の矢について考え始めたという訳ではありませんのでお間違い無きよう。
さて、時間の矢というのを考える時にはいくつかのテーマがあるようなので、それに触れておきましょう。
●熱力学的な時間の矢
エディントンの言っていた時間の矢というのがこのタイプですね。時間の矢の話になると必ず出てくるやつです。熱力学第2法則…エントロピー増大則とも言われています。この法則を上手く説明できるか分かりませんが、挑戦してみます。
閉ざされた部屋の中に固形燃料と一人用の鍋があります。旅館での夕食でよくあるあれですね。その鍋の中には水が入っています。固形燃料に火をつけてしばらくすると鍋の中の水が少しずつ温まって、そのうちに沸騰を始めます。同時に固形燃料によって鍋だけではなく、少しは部屋も温まっていくことでしょう。さて、沸騰し始めると蒸気が部屋中に満ちて、そのうちに固形燃料は燃え尽き鍋の中の水も跡形もなく消えてしまうでしょう。
さて、固形燃料と水は一体どうなったのでしょう。固形燃料は一部は部屋を温め、残りは鍋を温め水を蒸発させる為にエネルギーを使い果たし姿を消しました。燃える固形燃料で温められた水は沸騰することで水蒸気となり部屋のあちらこちらに漂っています。
じゃあ逆はどうでしょうか。部屋中に散らばっている水蒸気を集めて鍋を水で満たし、温まった部屋の熱を集めると固形燃料を復活させることはできるでしょうか。まあ、経験上無理な話ですね。もし固形燃料を復活させようと思ったら、なんかものすごく大変な作業をしなくてはならなくなりそうです。
これが熱力学第2法則のイメージ…だと思います。間違っていたらごめんなさい。
という事で、熱エネルギーで何かをしたとしても、その何かで逆に熱エネルギーを作り出すことはできないし、熱エネルギーを100パーセント仕事に変換することもできないし、最終的には何にもできなくなります。これを「熱的死」と言うそうです。まあ、経験上こうだよねという事で覚えておいてください。
●宇宙論的な時間の矢
宇宙は超高温超高密度状態から膨張したと考えられています。最初は均等だったのが一部が冷え銀河とか星が生まれ、今では均等とは言えない状態になっています。まさに乱雑状態。晴れた夜に空を仰ぐと星が均一に散らばっているかのように思えますが、それほど注意深く見なくても、天の川があったり、星があまり見られない部分があったり、意外と宇宙も均一ではないことに気付きます。という具合に、熱力学的な感じで考えれば均等から乱雑に向かっているから時間の矢が一方向に向いているという見方になります。
次に熱力学を無視して考えてみましょう。宇宙が永遠に膨張を続け、結果的に宇宙が冷え切って終わってしまうのならば、この宇宙での時間の矢は終末の方向に進んでいる事になります。だと考えたらやはり時間の矢が反対の方向に進むことはないでしょう。
または、宇宙がある程度の大きさまで膨張したところで収縮し始めビッグバン直前の状態まで戻り再びビッグバンを起こし再び膨張を始める、という考え方もあります。この収縮を始める時に時間の矢が逆向きに進むかもしれない、と考えている人もいます。
と、これらの他にも時間の矢に関する考え方はいろいろありますが、あとはご自分でお調べになるといいと思います。
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