84話

 どれどれ、と小さめの袋の包装紙をビリビリと破って中身を見る。


「……シャーペン……ってこれめっちゃ高いやつじゃん!」


 黒いシンプルなシャープペンシル。だが、俺は知っている。確か1ヶ月前に新発売した有名メーカーのシャーペンで、書きやすさが話題になったやつだったような。

 しかもシャーペンにしては高くて、庶民派の俺は手が出せなかったやつ……っ!


 俺が驚きつつシャーペンを掲げると、ニコニコといつも以上に嬉しそうな日夏が頷いた。


「うん。渚くん、普通の人以上に勉強するし、実用性に優れたものの方が嬉しいかなぁ……って」


「ありがとう…………って、俺にあげるの前提?」


「あ」


 しまった、と言わんばかりの表情で、映画のコマ送りを見ているかのように徐々に左側に顔が逸れていく。器用な……。


「墓穴を掘ったわね」


 何故か勝ち誇った顔の花ちゃん。何故に得意げなんだね、君は。


「ヒュー、ヒュ、ヒュー」


 首の可動域限界まで逸らした顔のまま、わざとらしい口笛を鳴らす日夏に、花ちゃんが嘆息した音が聞こえた。


 少しだけ沈黙が場に広がる。なんか……うん、ごめん。って、俺が悪いのか……?


 そして、その空気を打ち破ったのは、静かに花ちゃんからのプレゼントを開けた日夏の叫び声だった。


「あーっ! 白海さんだって、渚くんにあげる気満々じゃん!! ほら、男物のハンカチ!」


 青色のハンカチ。どう見ても男物だ。

 今度は日夏が勝ち誇る。だから何故に……ry)。


「べ、別に女でも使えるでしょ」


「それは私の言い訳でしょ!」


 じゃあ何故しない、とは誰もツッコミを入れなかった。

 なんか日夏は俺に対する態度が変になってきたような気がするんだよな……気のせいか?

 

 わーわーぎゃーぎゃー、と言い争いを繰り広げる二人。俺的には仲良いように見えるんだけどな。目が腐ってるとか言わんといて?

 だって、喧嘩するほど仲が良いの典型的例じゃないか? この二人。


 まあ、少なくとも今の楽しい雰囲気をぶち壊しにするわけにはいかないので(もう手遅れ)、とりあえず二人を諌める。


「まあまあ、として大切にしてくれてることはわかったから、喧嘩しないでくれよ。それに、こういう事はプレゼント交換の醍醐味だろ?」


 さあ、これで落ち着いて──


「「わざとやってるの?」」


 ──くれなかった。

 あっれぇ……? 

 怒り心頭な様子を見て、俺は何かを間違ったのだと推測したが、その部分が全くもってわからん。

 これが女心? いや、もっと単純な気がするけど……えぇ?


 そんな俺を見て、二人は顔を見合わせてため息を吐く。

 なんてことない。いつもの一幕である。

 俺は事情を全く理解してないけど。


 別に聞くつもりはない。二人にだけ通じる『何か』ならば、俺がそこに立ち入るのはヤボといったものだろう。


 

 空気が戻った所で、もう夜と言っても差し支えのない時間になった。そろそろ解散の運びとなるだろう。

 そういえば、俺のプレゼントは開封されてないな。まあ良いか。


「じゃあ、そろそろ時間だし帰ろうかな」


 えー、と花ちゃんが残念そうな顔をする中、日夏がイタズラ気に唇に指を当てる。


「んー、泊まっていっても良いんだよ?」


 一瞬の空白。蠱惑的は微笑みを携える日夏に、俺は少しだけフリーズしていた。


「ちょっと、何言ってるの!?」


 花ちゃんの声で正気に戻った俺。いや、本当に何言ってんの!? 泊まるなんて無理に決まってるだろ!!


 花ちゃんも怒って……。俺は花ちゃんの表情に違和感を感じた。

 怒っているには怒っているのだが、何処かもいる気がするのだ。しきりに視線を四方八方に彷徨わせているし、落ち着かない様子で足踏みしている。


「いや、花ちゃんの言う通りだし。女子の家に泊まるわけにはいかないから……」


 その瞬間、グルン! と俺に向いた花ちゃんが、親指を立てた。よく言った! と言っている光景を幻視した。


 すると、無言で日夏は立ち上がり、窓際へ歩く。

 その様子を何しているのだろうと見守っていると、カーテンに手をかけたまま、ニヤリと顔が歪む。


「でもさぁ……」


 バッ! と日夏はカーテンを開ける。


「外、猛吹雪だよ?」


 真っ白で何も見えない空間が外に広がっていた。

 まごうことなき、超絶猛吹雪である。


「まじかよ……」


「そんな……」


 花ちゃんに至っては膝をついて悔しがっていた。何がそこまで掻き立てるんだ……。



「諦めて泊まっていこ? 白海さんも、ね?」


 真っ白な景色をバックに、何が可笑しいのか、ただ笑う日夏は、まるでイタズラが成功した子供のようだった。




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遅くなって、本当に誠に途轍もなく申し訳ございません。

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恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした 恋狸 @yaera

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