66話

「というわけで忍び込みますよ!」


 翌日の放課後。また俺の家。

 瞳さんに事のあらましを説明しながらニンニン! と忍者っぽい適当なポーズを取る。


 話を聴きながら目をぱちくりとして戸惑っている瞳さん。

 そりゃまあ、当然だよな。俺でさえ戸惑ったんだから。どのみち穏便な解決方法はそれしかないんだ。

 しのごの言ったってもう無駄。


「そ、それってワタシたちだけでかしら?」


 だんだんと状況を飲み込み始めた瞳さんは狼狽えながら疑問を口にする。


「ええ、もちろんです」


「そうだと思ったわ……」


 諦めたように目頭を抑えて何かを考えている様子。他に人員がいないんだから仕方ないだろうよ。正直、瞳さんは危ないから残ってもらいたかったけど、前当主と面識のない俺は顔がわからない。

 つまり、助けようがないのだ。

 だから、迷いに迷ってそう決断した。


 瞳さんもそれがわかってるから、それを聞かないし、多分俺がついてくるなと言っても絶対に聞かないだろう。

 瞳さんの豪胆さや強引さはここ最近で目に染みてよくわかった。


 ただ、さすがに人員不足ではないか、と不安になっている様子だ。

 ただ、


「俺たちは戦いに行くんじゃないです。救出が目的ですから、大人数で行くとかえって失敗しますよ」


 謂わばミッショ○イ○ポッシブルだからな。まあ、見たことないけど。


 いや、イ○ポッシブルは不可能な、って意味だからダメじゃん。


 適当に英語で作るなら

 Mission Infiltrate(潜入使命)かな?


「確かにそうね……。ミッションインフィルトレイトかしら……」


「同じこと考えてる……」


 どこで連携出してるんだよ!


「でも、ワタシたちだけじゃ、心許ないのも事実よね?」


 うーむ、確かにそうといえばそうだ。

 見張り、連絡係、実際の潜入。


 せめて三人か四人は欲しいところなんだよなぁ。


「まあ、そうですけど」


「じゃあ、『六道』の子分に任せるのは?」


「ダメです。信用ができません」


 見ず知らずの人に仕事を任せれることは俺にはできない。

 それに『信用』というのは連携において重要な役割を果たす。

 その人の人となりを知っておけば、何かミスを犯した時にも即座にカバーすることができる。


 同じ理由で、『天笠』を頼ることもできない。  

 俺たちの共通の知り合いで助けてくれそう人……いないな。


「仕方ないです。ここは二人で────」


 ピンポーン、とその瞬間、俺の家のインターホンが鳴った。

 宅配便も呼んでないし、誰かが家に来る連絡もない。


 一体誰だ?

 そう思いながら、ガチャッと扉を開けると────


「あ、どうもです。若」


 デブとヒョロの凸凹コンビ。

 ヤスとヒデがいた。


「なんか扉を開けるたびにお前らがいる気がするんだが」


「そうなんですか……って言いながら扉をしめようとしないでくださいっ……!!」


 チッ、意外に力強いなこいつら。

 今、忙しいんだよ……。


「見ての通り、俺は忙しい。帰れ」


「どこが見ての通りなんです!?」


 手ぶらで私服の俺を見てそんなことをツッコむヤス。


「まあまあ、ボスの快復祝いに品物を持ってきただけなんですよ」


 すると、ヒデがここに来た目的を言って、俺たちを宥めた。


「そうか。いらないから帰れ」


「「ちょっと待ってください」」


 二人揃った見事なコンビネーションで俺の袖を掴む。


「だぁぁ! しつこいなお前ら…………」


 ん? コンビネーション?

 そういえば、こいつらって『天笠』の接待係とか会場の手配とかしてるし顔広いよな。


「どうしたんですか?」


 急に黙った俺に怪訝な表情をする二人。


「なあ、お前ら『六道』の現当主と知り合いか?」


「え? いや、まあ何度か顔を突き合わせたことならありますけど」


 唐突な俺の問いに、律儀に答えるヒデ。


 ほーう。使かもしれん。


「なあなあ。ちょっと手ぇ貸して」


 ニヤリとしながら俺は二人にそう言った。


「ヤバい。俺、ものすごく嫌な予感するんだけど」

 

「奇遇だな。俺もだ」


 二人は何か内緒話を繰り広げる。

 どうせ、嫌な予感がするとかそんな会話だろ。

 ま、こいつらは断れないからな。

 俺は次期当主(仮)で、あいつらは子分。


「「やるしかないですよねー」」


「うむ」


「「はぁ……」」


 ホントこいつら息はバッチリだよな。


「んじゃ、中入れ」


「「へーい」」


 二人合わせてなんて気のない返事をするのだろうか。

 そんな大変じゃないって。


 中に入った俺たちだが、当然ヤスとヒデは瞳さんの存在に大いに驚いた。


「な、な、何でここにぃ!?」


 反応がいいな。

 二人を伴ってリビングに入った俺に、どういうこと? と目配せをする瞳さん。


「えー、一応、知り合いですよね?」


 面識がある、と言った二人を信じていないわけではないが、本人に確認を取る。


「そうね……何度か話したこともあるわよね……ええと、ヤデさんとヒスさん?」


「間違いかたが酷い!?」


 すかさずツッコミを入れるヤス。やっぱりお笑い芸人目指せるんじゃないか?


 名前を間違えた瞳さんだが、口元が笑ってることからおそらくわざとだろう。


 ま、とりあえず、役者は揃った。

 あとは、話に入る前に、ヤスとヒデに説明しなきゃだな。


「─────────ってわけ」


「「…………」」


 話が進むにつれて、そのスケールの大きさにだんだんと無言になってきた二人。

 話の終わる頃には、『まじかー』と呆然とした表情を浮かべていた。

 気持ちはわからんでもない。


 

 ま、とりあえずこの四人で侵入だ!!


 いざ、敵の本拠地──俺を……いや、俺たちを怒らせた張本人─────


 ────『若草組』に乗り込もう。 



 

 

  


 

 

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