62話

 瞳さんが転校してきてから数日が経った。

 あれから何かしてくるのでは、としばらくビクビクしたものだが、特に何も起こらなく最近は変わらない日々を過ごしていた。


 そんな矢先。というか、この安心した期間を狙ってきたような気もするが、事件は起こった。


「おい! 渚てめぇ! なんか美人の先輩が呼んでるぞ!」


「え?」


 昼食をとっていると、あまり仲良くないクラスメートが話しかけてきた。


 その時点で嫌な予感はしたけど。

 もしかしたら別の人かも? と信じたが、……まあ、当然、瞳さんだったよね。


 呼んだのに自分から颯爽と教室に入ってきた瞳さんは、キョロキョロと周りを見渡した。


 恐らく俺を探しているのだろうが、その行動は俺にとって危険だ。

 ただでさえ、噂になっているのだ。俺が用だとわかると目立つ……。


 昼休みのいつもの喧騒は、瞳さんが教室に入ってきたことで、別の意味でざわざわと騒がしくなった。


 なんか、すごい嫌な予感すんだけど……。用があるならスマホで連絡すればいいことだ。何か別の意図がある気がする。


 とりあえず、見つかっては面倒なことになるのは目に見えているので、そろりと人に紛れて教室を出よう。

 

「あら……いないのかしら。……ねぇ、そこのアナタ? 狭山渚クンはいるかしら?」


「え、あ、はい! そ、そこにいます!」


 おいこらてめぇ!

 瞳さんに話しかけられた男子は、その顔を真っ赤に染めて、俺の居場所を指差してあっさりとばらした。


 いや、美人の先輩に話しかけられたら、従うのは仕方ないけど、くっ、間が悪い……。


「……!」


 指を指されてから逃げた方が面倒なことになると判断した俺は諦めて止まった。


 つかつかと注目されながら歩いてきた瞳さんは、俺の目の前にくると話しかけた。


「ねぇ、渚。明日デートしない?」


 …………WHY?

 この人何を言ってるんだ? 


 脳が言葉を理解した途端、次に回る頭で考えたのは周りの視線。


 案の定、ざわざわ、ガヤガヤと、俺たち……主に俺を疑わしい目で見たり、まるで親の敵のように睨み付けてくるやつもいる。いや、ひでぇ。


「デートって言わなかったか? てか、なんの関わり?」


「いや、デイトかとしれん。デートだったら海に捨てよう」


「いやいや、アウトじゃない? もし、デートだったら狭山を山に埋めよう」


 信じたくないのはわかるけど、あんたら俺の扱い酷すぎん!?

 毎回思うんだけど、俺特に何もしてないんだけど、なんでこんなにヘイト集めてるんだ……。


 いや、まあ、思い当たるふしはあるけど、全部無実なんだが……。


「冗談は止めてくださいよ。例え知り合いでも言っていいことがありますよ」


 とりあえず、場を落ち着かせなければならない。焦る気持ちをなんとか抑えてポーカーフェイスで冷静を装う。

 ここにきて、伊縫先輩で会得したポーカーフェイスが役に立つとはな……!

 ラッキー、と思ったのも束の間、俺は一際目立つ二人の視線を発見した。


 花ちゃんと日夏だ。

 なぜか二人も俺のことを睨んでくる……。

 そのため、なんとか言い訳を考えた。嘘は言ってないしね!


 瞳さんは、俺の焦る表情を楽しそうに見つめ、俺の視線の先にいる花ちゃんと日夏を見た瞬間ニヤッと口元を歪ませた。


「……ふーん。なるほどね」


 一言、何かを口にした瞳さんは、どこか楽しそうな表情のまま、俺に近づいた。ゾクッとした感覚とともに俺の頭が警鐘を鳴らしたが遅い。


「さ、行くわよ。


 そう口にした瞳さんに、俺は思わず固まってしまった。教室の空気もその瞬間、凍る。

 雑然とした教室に突如訪れる沈黙の時間。慌てて瞳さんの発言を咎めようとするが、彼女はもう一歩進みさらに行動を重ねた。


「ちょっ、うぉ!?」


 う、腕組むなぁぁぁ!!

 思考が固まった瞬間に、瞳さんは一瞬で腕を組みクラスメートに見せつけるかのように笑った。

 その瞬間、形の良い胸が腕に当たった。あ、柔らかい……。いや、去れ俺の煩悩!

 もちろん、そんなことに慣れているわけのない俺は、騒然としてるこの教室で放心状態になってしまった。


 そして、そのまま最後まで楽しそうな……いや、恐怖を感じるほどの嗜虐的な表情に変え、思ったより強い力で教室の外へ俺を連れ出してしまった。


 最後に俺が教室内を見た時、多くのクラスメートは困惑。


 花ちゃんと日夏の二人は、焦り、怒り、そして挑戦的な笑みを浮かべているのを見た。




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 明日と明後日も更新します。

 

 しばらく小説を書けなかったせいで、鈍っていますが、どうかご容赦ください……。


 新作のほうもどうかよろしくお願いします。


 




 




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