第52話

「って感じだった……。心配かけてごめん……」


「いや、大丈夫だよー。それよりも大事に至らなくてよかったね~」


 翌日の学校の朝、俺は日夏に昨日の謝罪と事のあらましを説明していた。

 俺が頭を下げると日夏は、笑顔で許してくれ、なおかつ心配もしてくれた。

 さすが大天使。心が浄化していくようだ……。


 ただ……気のせいかもしれないけど、日夏の表情に影が射していたような気がした。

 俺はその取り繕っているような表情に少しだけ不安を覚えた。



☆☆☆


「い、いよいよだね」


 朝の笑顔とは打って変わって緊張したような表情になる日夏。


 そう、現在は7時間目のLHR《ロングホームルーム》の前の休み時間。

 ついに模試の結果が返ってくる日なのだ。


「だ、だ、大丈夫さ。そそそそんな緊張するなよ」


 あぁ、何でだ……。

 日夏より緊張している気がする。

 それもそのはず。この結果によって様々な事が起こる。 

 もちろん、それは日夏自身も、俺も関係があること。 緊張するのも仕方ないかもしれない。


 日夏が手足を震わせた俺の様子にクスッと笑う。

 緊張は完全には解けていないが、少しは気が楽になったのだろう。

 案外、自分よりも人が緊張していたら楽になるものだ。


 つまり計画通りということで…………嘘です、素で緊張してます。


 だって仕方ないじゃん! 結果出てなかったら俺のせいだし、何より努力は報われるって信じてる日夏が可哀想だろ。


 でもやれることはやったんだ。

 信じるしかない。


「狭山渚」


 不安を抱えていた俺の葛藤から現実に戻したのは、かなり威圧感たっぷりと担任の声だった。

 気付けば模試を返却してる最中だった。

 俺の出番が回ってきたのだろう。


 少し急いで先生のもとへ向かう。

 自己採点してもミスしている部分は無かった。

 ゆえに満点なのだろうが、どうしても結果を見るまでは少し緊張してしまう。

 結果を見るまではそれが満点なのか、そうじゃないかはわからない。


 シュレティンガーの猫理論だ。

 

 俺が先生の目の前に立つと、ふいにため息を吐かれた。

 なんか気の触ることでもしただろうか。

 疑問を感じて表情を見ると、呆れているような感心しているような顔だった。


 見た感じ、落胆のため息ではなく感嘆なのだろう。


 ということは……


「また満点、だな。相変わらず化け物だな」


 他の生徒には聞こえぬようにボソッと囁く先生。

 

「生徒を化け物扱いしていいんですかね?」


 俺が先生の言葉に苦笑すると、先生も微笑む。


「お前に関してはスペックが異常だからな。化け物でいいさ。褒め言葉だからな。

 それにしても、一体どういうことをしたら満点なんか取れるんだか……」


 男言葉で粗雑な態度だが不思議と嫌な気持ちはしない。それは生徒を信頼し慈しむ温かい言葉だからだ。


 ただ俺に関しては本当に雑な態度が多い……。

 何やってもできるっていう信頼があるからなのだろうが。


「まあ、努力の賜物ですよ」


 本当の話だ。

 少なくとも勉強が趣味の人はいないだろからな。

 でも、もったいない。

 知識が身に付き、それを試験テストで実践し、結果が出る。


 これほど単純で奥の深いものはない。

 深みに嵌まると戻れなくなりそうな魅力がある。

 もっとも、これをケイヤに言ってみたところ、


『うわっ、変態じゃん』


 と言われた。

 解せぬ。

 


「まあ、だろうな」


 俺が努力と答えると、妙に実感の篭った声が、踵を返した俺の後ろから聞こえた。



「春風日夏」


「は、はい」


 そして、遂に日夏が呼ばれた。

 誰から見ても緊張してる様子が丸分かりだ。

 手足が同じ動きをしている。暗殺者かよ。


 ふと、周りを見ると、そんな日夏の様子にほっこりしている人が多くいた。


 そのほとんどはファンクラブの会員だが。


 さあ、テストの結果はどうだったのだろうか。

 




  

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