第44話

「さあ、デートだよ!」


「え、これデートなの!?」


 少し、話し、気を取り直して行こう、というタイミングで日夏がそんなことを口にした。


「男女が二人で出かければデートなの」


「えぇ……そうか。いや、そうなのか?」


「そうなの!」


 有無を言わさない口調に、俺は心の中で白旗を振る。


「えーと、まずは映画だったよな」


 送られてきたプランを、日夏に確認する。

 日夏は頷き、映画の内容についての説明をした。


「そう! 実は『キミ色トリアージ』っていう映画が見たくてさ」


 俺はタイトルにピンときた。

 

「確か……テレビのCMで放送されてたよな。そうか……恋愛映画か……」


 俺が黙ったのを見て、日夏が不安そうにする。


「え、もしかして恋愛映画ダメだった? もし、嫌なら他の映画に変えるけど……」


「いや、俺も見たいと思ってたから大丈夫だよ。ただ……いや、何でもない」


 俺は言おうとした言葉を封じる。

 別に恋愛映画が見たくないわけではないのだ。

 ただ、それを言ってしまうとキモいと思われるかもしれない。

 そのため、言わなかった……のだが。


「なんだか本当にデートっぽいなぁ……って?」


 日夏の確信を突くような言い方に、俺は図星を突かれ、押し黙ってしまった。

 日夏は、そんな俺の近くにより、耳元でこう言った。


「大丈夫。私も同じこと考えてたから」


 どこか魅惑的な言い方に、ビクッと激しく心臓が跳ねた。

 

「そ、そう」


 俺はもう、たじたじだ。

 終始、日夏のペースに持ち込まれていく。


 といってもまだ始まったばかりなのだが……。



 そして、俺たちは映画館に赴く。


 日曜にしてはそれほど、混んでおらず好きな席に座ることができた。


 真ん中の中列辺りを指定した俺たちは、映画が始まるまで雑談をして過ごした。


 時間が近くなると、ポップコーンとジュースを買い、スクリーンへと向かった。


 そして、始まるまで隣に座る日夏の匂いに、集中できないと思っていた俺だが、映画の出来が素晴らしく、そんな不純な考えなど、吹き飛んでしまった。



 簡単にストーリーを説明すると、


 医師である、主人公はある日火山の噴火による大災害に見舞われる。


 たくさんの怪我人がいるなかで、主人公は医師らしく、治療する中で、トリアージというものを付けて行動する。


 怪我の規模や種類によって、治療の優先度を色によって表現するというものだ。


 そこで主人公はある少女に出会う。

 痛みを人より感じなく、他者を優先してしまう優しい少女。

 彼女は噴火に巻き込まれ、目立った外傷は無いものの、主に内臓面で激しい損傷を負ったことを悟った。

 なぜなら痛みを感じたからだ。


 少女は医師志望だった。

 他者を優先してしまう彼女は、トリアージのことを知った上で、助けにきた主人公に、自分は大丈夫だ、と伝える。


 だが、洞察力が人一倍優れた主人公は、少女の優しい嘘に気が付いてしまう。

 他者を優先する少女の気持ちを汲み取るのか、それとも無視して助けるのか。


 そんな葛藤を描いた映画だった。


「ふぅ……」


 俺は息とともに、映画で感じた余韻を吐き出していく。

 隣を見ると、日夏も同じように、余韻に浸っているようだ。


「恋愛要素が皆無に等しかったけど、そんなことが気にならないくらい素晴らしかった……」


「本当にね……」


 そう、この映画には恋愛要素はほとんどなかったのだ。

 この時点で、日夏の目論見は半分徒労に終わったのだが、当然俺は気付くよしもないし、当本人である日夏も、映画のせいで気にならなかったのである。


 そして、俺たちは、入ったレストランで感想を熱く語り合った。





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