第40話

 Side 日夏


 私は猛烈に緊張していた。

 これに失敗してしまうと、せっかく仲良くなった渚くんと離れてしまう。


 周りの目を気にする彼にとって、私が群衆の目のなか、話しかけられるのは迷惑だろう。


 うぅ~! 緊張する……。

 せっかく仲が急接近したのだ。

 現れたライバルにも負けるわけにはいかない。


 ふと私は、最大のライバル、白海花を見る。


 女の私から見ても綺麗で整った顔をしている。

 まさに大和撫子……。

 私が勝ってるとこなんて……一つあった。


 ふふん! 私の胸部装甲の方が厚いもんね!

 おっと静まれ黒い私。いくら男にとって重要な部分が勝っていても性格だもんね! 男にとって重要でもね!


 あら、また黒い私が。

 


 そんなことを考えていてもやっぱり緊張していていた。


 緊張と同時に失敗してしまったら……という最悪な未来を考えてしまい、恐怖に体が動かなくなってしまう。


 そのタイミングで、私の机に白い紙が置かれていた。


 緊張で震える手でそれを手に取り、二重折りされていたその紙を開く。

 すると、そこには


『頑張れ! って言われると緊張するよね』


 というふざけた一文だった。

 名前は書かれていないけど、こんなことする人なんて一人しかしらない。

 

 でも、そんな言葉に救われた自分もいて。

 

「ふふっ」


 微かな笑い声とともに、私の緊張はどこかにいってしまった。



 

 そして、模試が始まった。


 一時間目、国語。


 評論文では、張り巡らされる文章の罠を掻い潜り、正解を導き出す。

 物語では、張られた伏線の意味を正しく読み、書き手の心情で考える。


 様々な問題を通りすぎ、私の手は止まることを知らないように、スラスラと書く。


 こんなにも自信のある、手応えのあるテストは初めて。だって、渚くんが教えてくれるんだから!

 恋は女の子を強くするの!


 そして、選択問題の難問も、難なく答えた。



 二時間目、数学。



 頭に叩き込んだ公式で、小問集合を解く。

 一番簡単なこの大問では悩むことなく、解くことができた。


 二次関数も特に苦労せずに解くことができた。

 勢いそのままで書いて、解く。


 しかし、国語の時から止まらなかった手は、最後の問題。


 三角比の図形で止まった。


 ぬぐっ、私の苦手な問題だっ。


 見れば見るほど図形というものはわからなくなる。

 

 どうしよう……!

 刻一刻と時間が迫るなか、私は焦りで頭がぐちゃぐちゃになってしまった。


 その時、私の頭の中で渚くんの声が再生される。

 いつだったか、休憩の間に話してくれたこと。


『焦ったら負けって言葉あるけど、人間は全員焦るものだから。大事なのはいかに焦った状況で、そこから平静を取り戻す……わけじゃなくて、その問題に深く集中できるかだから』


 さあ、問題の真理に行こう、と声が聞こえた気がした。


 そして私はペンを動かした。



 三時間目、英語。


 最初に行われたリスニングは完璧に聞き取ることができた。

 

 そして、サラサラとペンをまるで答えをなぞるかのように書いていく。


 そして動かし続け、また最終問題でペンが止まった。


 そう、ライティングである。

 

 ライティングは例えば、『あなたは制服があることについてどう思いますか。あなたの意見で書きなさい』的な問題だ。


 決まった答えが無いため、難しさは頭一つ飛び抜けている。


 それに精一杯、書いていく。

 目標のもとに、私は確かな自信とともに書いていく。

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