第28話

 急展開ですが、これがデフォです。


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「親の責務の放棄……か」


 一週間後に渡された情報は、ある意味俺の予想通りだったが、結果は最悪だ。


 俺が依頼した内容。それは白海の母親がどこで何をしているかだ。

 もちろん、必死で働いているならなにも問題はない。


 が、今現在、東京都の歌舞伎町にて水商売。

 所謂、キャバクラで働き、男の貢ぎで生活をしていた。

 ギャンブルの癖は治らず、寧ろ悪化している。

 

 水商売が悪いことだとはもちろん、思っていない。

 だが、問題は白海の為に働いているわけでもなく、自分の好き放題に生活していることだ。


「最悪だな……」

 

 考えうる限りの最悪な結果。

 白海の為にどうする?

 キャバクラを辞めてもらい帰らせる? ──答えはNOだ。

 素直に聞くとも思えないし、帰ったとしても、拒絶されるのが目に見えている。


 白海はある意味諦めている。


 ──だから俺もなにもしないのか?


 ……それもNOだ。


 まただ。また鎖だ。


 白海は母親と過ごした過去に囚われている。いつか自分の元へ帰ってくれるのではないか。

 ギャンブルも辞めて。


 そんな希望的観測を胸に宿して。


 その現実がこれか?


 ふざけるな。


 俺がするべきことはなんだ。

 白海と母を会わせて解決?

 違う。


 答えは────決別だ。

 無情だって? だが、今の状態を知らずにこのまま過ごす方が無情じゃないのか?


 でも、俺は焦らない。

 仲直りが叶わなくたって、それが一番の願いであることは俺はわかる。


 いや、


 だから……まずは聞こう。本人に。



☆☆☆


 俺は事実を知った次の土曜日、飛行機に乗っていた。

 もちろん、行き先は東京。


「高校生だけで乗る、飛行機ってなんか不思議よね」


 と、遥か上空の飛行機の機内で、そう言った。


 どうしてこうなったか、時は二日前に遡る。



☆☆☆



「は? お前東京行くの? なんで?」


 次の土曜に遊ばないか? と放課後、ケイヤに誘われた俺は、東京に行く旨を伝えた。


「いや、ちょっと野暮用で」


 目的を言うわけにいかない俺は、そう言葉を濁す。


「野暮用で飛行機乗って東京に行けるお前がすげぇわ」


 呆れた表情でそう返してくる。


「まあ、そういうわけで土曜は無理だわ」


「おっけ。じゃあまた誘うわ」


「ごめんな、じゃあな」


 話が途切れ、俺は帰り支度をする。

 計画はすでに練ってあるので、あとは行動するのみだ。

 と、そこへ件の白海がこちらへ歩いてきた。


「狭山くん、東京行くの?」


「まあな」


 なんで、といった顔で見つめてくる。

 話を聞いていたということは、野暮用の部分も聞いてるだろうが、疑っているのだろう。

 相変わらず勘が鋭いというか……心を読んでくるというか……。


「で、どうして行くの?」


「いや、野暮用でな」


 当の本人に言えるはずもなく、誤魔化す。

 しかし、その誤魔化しも、看破される。


「用があるっていうのは本当みたいだけれど、私には言えない内容なのね」


「……どうしてだ?」


 俺はその言い回しに冷や汗をかきながら、誤魔化す方法を探る。


「今、この教室に他の人がいないのに、私に言えないってことはあの『秘密』の用事でもない。かと言って、くだらない用事とか、法事とか親戚の家、とかなら私に言える。ということは私に関係すること。違う?」


 ……天晴れだ。

 名探偵にでも成れるんじゃないか?

 だが俺は言うわけには────────────いや、待てよ。


 本当に言ってはいけないのか。紛れもなく当、本人の事情だ。


 こそこそ嗅ぎ回っていた俺とは違う。

 本当にこの事情を解決したいなら本人同士の話し合いが必要なはずだ。


 ただ、白海には覚悟が必要なはずだ。


 だからこそ、俺は白海に話した。


「本当は─――――――ということなんだ」


「ふざけないで!」


 俺は唇をわなわなと震わせ、確かな怒気とともに発せられた言葉を甘んじて受け入れる。

 続く言葉は予想できる。

 勝手な行動をしていた俺への――


「なんでそれを私に言わなかったの!?」


 ――ではなかった。


「え」

 

 俺は思わず呆けてしまう。そんな俺に構わず白海は続ける。


「私の問題よね? 一番関わりある私になんで言わないのよ。なんで一人でそんなことするのよ……」


 続く言葉は怒りではなく悲しみ。

 

「怒らないのか? 調べるとかストーカー紛いのことをしておいて」


 怒るならそこが問題だ。

 いくら理由を付けてもそういう行為をしたことが問題だ。


「怒る? なんで? 私の為にしてくれたのよね? ……あぁ」


 そこで、白海が何かに気が付いた顔をした。


「勝手なことをして、なんて言わないわよ。……私だってわかってるの。話すことが必要なことくらい」


 人一倍感情に敏感な白海だ。

 自分の感情にもそれは適用されていたのだろう。

 白海は沈痛な面持ちで、どこか自分を責めるような顔をしていた。そして、俺は見つめて、決意した顔でこう言った。


「私も連れていって」


「わかった」


 もちろん、頷く。白海は充分に覚悟をしていた。


 自分の肉親を本当の意味で失う覚悟が。

 

 そんなわけで、俺は白海と東京に行くことになった。



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 ラブが見たい方、すいません。

 シリアス入りますが、そこまで話数は長くならないです。


 ラブももちろん、入るので。

 もう少しだけ、お付き合いください。

 白海がどう成長していくのかを。

 

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