『幽霊の正体見たり枯れ尾花』と言うけれど、ホラー物の最大の弱点は、ストーリーが進み怪異の解像度が上がる程、怖くなくなってしまう事だろう。人間は理解できないものに、自らが抱く恐怖の理想像を投影して想像を膨らませ、恐れる。当然、答え合わせが進むほど、恐怖の理想と怪異の正体はズレていく。『なんだまた殺された女の怨念かよ』『なんだまた人里離れて隔離された村の変な風習かよ』『なんだまたミトコンドリアの暴走かよ』大人になって触れる作品が増える程、ホラーのオチに対してそんなガッカリ感を抱いてしまう。対して今作はホラー作品序盤における『正体の分からない不条理への恐怖』ばかりを集めた作品だ。『オチだけ置いておく』とタイトルにはあるが、本作はむしろオチなし作品なのである。ホラーの盛り上がり部分。今は懐かしいテレビの怪談特集ならば『キャアアアア』と女の叫び声のSEが入る所だけ。その後登場する胡散臭い霊媒師による解説なんかはすっとばして、ただただ怖がらせることを目的として、割り切って書かれている。『ホラー作品に読者を怖がらせる事、それ以外に必要か?否』そんな作者の強い意志を感じる。登場人物達の織りなすヒューマンドラマだとか、ストーリーの意外性や起承転結、そんなものに逃げたりしない。怪異の理由説明がないから、読者には最後まで安心感が与えらない。何が何だか分からない、怖い。ずっとその気持ちのままだ。読者はまるで肝試しの途中にホラースポットに置き去りにされた様に、途方に暮れてしまうのだ。
何より凄いのはそれだけの作品を、読み物として成り立たせる作者のセンスと文章力。ちょっと覗くつもりが、引き込まれて、先を読むのが止まらない。いつの間にか、自分も作者の描き出す無機質な無駄のない不条理世界に捕らわれている。そこには恐怖の根源だけがある。そんな作品である。